キマダラルリツバメ(準絶滅危惧)
キマダラルリツバメは、全国的に絶滅が懸念されている小型のシジミチョウ科チョウ類である.本種の幼生期の生態は極めて特異で、サクラやクワ、キリなどの古木に営巣するハリブトシリアゲアリの巣の中で幼虫は生活し、この共生アリによって口移しに餌を与えられるとともに外敵から守られる.代わりにこの幼虫は背中の蜜腺から共生アリに蜜を与えるという珍しい習性がある.だがこの生態的特性ゆえに、アリとのバランスが少しくずれただけで、一瞬に絶滅へと追い込まれる危険性をはらんでいる.
本種は本州の岩手県を北限に、関東、中部、近畿を経て中国地方の鳥取県、広島県まで分布するが、一般に個体数は少なく産地は極めて局地的であるため、2000年に公表された環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種にランクされている.特に関東地方では栃木県(栃木市)、埼玉県(名栗村)、山梨県(富士吉田市、大月町、都留市、塩山市、上野原町、丹波山村)、神奈川県(藤野町、津久井町、相模湖町)からのみ知られ、その希少性から山梨県と神奈川県(藤野町)では県の天然記念物に指定されている.このような生息状況に追い打ちをかけるように、近年は各地で減少傾向が見られ、絶滅した産地も少なくない.
このため本種の衰退要因の究明とその保全は急務の課題となっている。また本種は里山に生息するチョウの代表でもあるため、本種の保全は里山環境の整備にも繋がると考えられる。しかしながら、これまで本種の保全生態学的な研究は全くなく、詳細な定量的調査も行われていないことから、決定的な減少要因は明らかにされていない.地域ごとに衰退理由が異なることも十分に考えられる.
そこで本研究では関東地方を中心としたキマダラルリツバメの現在の生息状況を把握し、良好な生息環境と絶滅危惧環境(または絶滅環境)との関係性を解析するとともに、分子遺伝解析により地域集団の遺伝的多様性を明らかにして、各地域や地域間での本種の保全を見直す指針を提示することを目標としている.