研究内容

4.ダイニンの化学特性と超微細形態の解析

ダイニンは微小管との間に滑りを起こす.この滑り運動は,ダイニンにおいてATP加水分解による化学エネルギーが力学エネルギーに変換された結果生ずると考えられる.

このエネルギー変換の過程で,ダイニンは微小管との間に架橋を形成し,分子構造を変化させながら滑りを起こすと考えられるが,その機構はまだよくわかっていない.鞭毛から抽出したダイニンを用いてこの機構解明に,動きの機能制御と高分解能構造解析の2つの方向から挑んでいる.

興味深いことに,ダイニン分子のATP加水分解活性と滑りを起こす運動活性とは1対1に対応していない.運動活性には,ダイニンにある制御部位にヌクレオチドが直接結合し構造変化の制御を行うことが必須であるらしい (Inoue and Shingyoji, 2007; 図4).この点をこれまでにないユニークな手法で理解することを目指している.

ダイニンのこのように複雑な特性の理解には,運動中のダイニンの超微細形態の観察も欠くことができない.産業技術総合研究所の広瀬恵子博士らとの共同研究により,微小管と相互作用するダイニン1分子の高分解能構造解析を進めており,興味深い結果を得ている(近く公表予定).

図4. ダイニンの化学-力学変換の制御モデル。ATP加水分解が起こってもATP結合状態では、運動は抑制される。しかし、結合している一部のATPがADPと置き換わることにより滑り運動が起こる。

図4. ダイニンの化学-力学変換の制御モデル.ATP加水分解が起こってもATP結合状態では,運動は抑制される.しかし,結合している一部のATPがADPと置き換わることにより滑り運動が起こる.