卒業生の声

  • 本村 航介さん(2019年学部卒・2021年新領域創成科学研究科修士課程修了)

    就職先:雪印メグミルク株式会社

    『我々はどこから来たのか 我々は何者か我々はどこへ行くのか』。人類学分野で研究される先生方がよく授業で紹介してくださるゴーギャンの作品のタイトルである。人類学とはまさしくこの問いに向き合う営みだ。各研究室のホームページを見ると、それぞれの先生や学生のテーマや研究手法が実に自由かつ多様であることに驚くだろう。

    人類学を学ぶ本コースにも多様性を受容する風土がある。解剖や発掘など特徴的な講義もありつつ忙しすぎないカリキュラムを通して、じっくりと将来の進路について考えることが可能だ。アルバイトやサークル活動もできる時間も比較的ある。研究室同士の交流も活発で、個々人の研究テーマに挑むために必要であれば、他研究室へ質問や相談に行ける。実際に私も、コース内外の様々な先生のお力をお借りして自由に卒業研究を行わせていただいた。もちろん、研究学習以外の面でも(食べ物やお酒などを楽しみながら!)、同期・先輩・先生方と活発に交流できるだろう。本コースで研究し、素晴らしい仲間と過ごした時間はかけがえのないものである。

    本コースの卒業生の進路も実に多様だ。私自身は現在、一般企業に就職し人類学とはほとんど関係のない業務を行っている。まだ入社したてで社会人としてお話しできることは何もないのだが、人類学の広大な世界で自らの問いを設定し挑んだことで培った主体性は、どういう進路を歩もうとも必ず強みとなると確信している。

    あなたにも本コースで広大な人類学の世界を満喫し、そして『あなた自身はどこへ行くのか』自由に探究する時間を過ごしてほしいと願っている。

  • チョウ シントウさん(2019年学部卒)

    進学先:筑波大学医学群医学類

    駒場の1年生だった頃、A系の存在を知ってから生物学科へ進学することは迷わなかった。なんとなくしかキャリアイメージがなかった私にとっては、将来に活かせるスキルを身につけることよりも、知りたい、学びたいという欲望を満たすことを優先した。「人間とは何か」という問いに大いなる魅力を感じた私の心の奥には、「自分とは何者か」という問いに自分なりの答えを見つけたかったからだ。

    A系で非常に濃い時間を過ごし、講義・談話会・野外実習や医学部での実習などを通して、知的好奇心が赴くままに存分楽しんでいる中で、将来のキャリアに対する悩みが生じた。気まぐれで広く楽しく勉強したい私には、何か一つのことに絞って極めることは苦手だったので、院進の研究室選びは非常に難しかった。進路として大学院進学や就職以外に、医学部編入を選ぶ先輩方は何人かいることは以前からも聞いていたが、悩みの渦の中で自分の心はだんだんとその選択肢に傾けていき、とりあえず受験してみることにした。編入試験は志望校ごとに対策が異なるので、決して簡単なものではなかった。プレ卒の期間を(ゆる?く研究しながら)受験勉強にどっぷり使えたのも、先生方の配慮があってのことで、何をやろうとも先生方はいつもそばで暖かく見守ってくださった。

    紆余曲折はあったが、幸いなことに、編入試験に合格して2回目の大学生活をスタートできた。A系で学んだ多くのことは今でも役に立っている。遺伝子実験やゲノム解析は医学の授業でも頻繁に登場し、解剖実習は1回多く経験したおかげで理解が深まる。もう一つ面白いことは、人類学を学んできたと自己紹介すると、「アウストラロピテクスは聞いたことある」、「NHKの番組を見た」、「国立科学博物館の特別展は面白かった」など、多くの人は興味を示してくれる。友達作りしやすい他に、人類学の知見は学問の領域に限定されるものではなく、私たちのごく普通の日常の中でも楽しさを加え、彩りを添えてくれるものではないかと感じた。

  • 諸冨 希実さん(2019年修士課程修了)

    就職先:マッキンゼー・アンド・カンパニー

    生物学科に進学した際、A系(人類学)を選択することに迷いはありませんでした。ヒトに関心があったのも理由ですが、何よりも先生方のアットホームで楽しそうな雰囲気に惹かれていたことが最大の理由です。進学当初は漠然とした憧れから神経について研究したいと思っていましたが、野外実習を通して「そういえば、哺乳類が好きなのだった」と気づき、方針転換を決意。学部ではニホンザルを、修士では(おそらく人類学の範疇ではないであろう)ニホンカモシカを研究対象としました。そして、修士に入ったころは博士課程に進みポスドクとして研究をする道を何となく思い描いていましたが、就活中に出会った方々に惹かれ就職を決意しました。

    振り返ってみると研究テーマ然り就職然り、いつも唐突に方針転換ばかりしてきましたが、そんな私を温かく受け入れてくださり、卒業後も帰る場所としていつでも私のことを受け入れてくださる人類学の先生方には感謝の気持ちでいっぱいです。

    進学先・研究室というのは学問・研究をするための場であり、そして実は人として成長するための場でもあったと自分の経験を通して感じています。ですので、進学先や研究室を決めるにあたっては進学先の研究テーマも大事ですが、何よりもその進学先の雰囲気が自分に合うかを重視して検討なさってみてください。その結果として皆さんが人類学を選んで下さったら嬉しいです。

  • 岩永 華奈さん(2012年学部卒)

    就職先:ベネッセコーポレーション

    駒場生のみなさん、はじめまして。みなさんの中には、今、進振りで迷っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。私も大変悩みましたが、最終的に決め手となったのは人類学コースにあった人体解剖学実習でした。人体解剖なんで、めったにできる経験ではないですから。実際に進学してみると、人体解剖学実習以外にもいろいろな経験が私を待っていました。北海道へ貝塚を発掘しに行ったり、ニホンザルの行動を一日中観察したり、ある生物集団の行動についてコンピューターでシミュレーションしたり・・・。初めて経験することばかりでしたが、それらを通して人類という種についてさまざまな方向から考える面白さを学びました。人体解剖学に伴う医学部の課題や試験対策など大変な部分もありましたが,圧倒的に面白さが勝っていました。私は、社会に早く出たいという気持ちが強かったので、多くの理系学生が大学院に進む中、就職という、学科では比較的珍しい進路を選びました。それができたのも先生方の理解とサポートがあったからです。学部時代に学んだことが、現在の仕事に直接関係はしていませんが、間接的に私の人生を豊かにしてくれていると感じています。

  • 森田 理恵子さん(2011年学部卒)

    就職先:国家公務員

    今このウェブサイトを見ているみなさんは進振りに悩んでいらっしゃることでしょう。私に関して話しますと、数多の「生物学っぽいことができる学科」の中でどれを選べばいいものか,随分悩みました。しかしある日,はたと気付きました。私が勉強したいのはハエでもメダカでもなくヒトだぞ・・・と。そこで人類学教室について調べてみると、各研究室の研究テーマの面白そうなこと!生物学はいずれのテーマも面白そうだけれど、何よりヒトのことを私は知りたい。そんな思いから、人類学教室に進学することを決めました。専門が始まってからの授業はいずれも面白いものばかりでした。人体解剖から遺跡発掘まで経験できるのは東大広しと雖もここだけではないでしょうか。他にも石器を作ったり,ニホンザルを追いかけまわしてみたりと、研究室の中に閉じこもらないバラエティ豊かな研究の形に触れられるカリキュラムでした。学問の観点から面白いのは当然ですが、一般的に見ても非常に面白い、楽しい学科であったと思います。私は学部卒業後、公共機関で働いていますが、人類学教室で過ごした2年間は私の中で確実に活きています。

  • 上月 直之さん(2010年修士課程修了)

    就職先:日本経済新聞社

    駒場生のみなさん、こんにちは。私は2006年に人類学コースに進学しました。受験は物理・化学を選択したので不安もありましたが、同じ生物学でも珍しい人類学なら挽回できると考えました。3年時は人体解剖や人骨発掘など実習が多く楽しかったですが、暗記量が膨大な医学部のテストには苦戦しました。サークルはレスリング、バイトは塾講師をしていました。修士課程の2年間は分子人類・分子進化学研究室で遺伝子改変マウスの脳内の化学物質の分布の変化を調べました。人類学コースは研究室間の交流も盛んでよく飲み会がありました。忘年会の女装コンテストで優勝できたのは誇りです。修士論文は夜遅くまで研究室にこもって書きました。データが足りず、提出直前まで実験していました。「毎日コツコツ実験しておけばよかった」と後悔しました。今の仕事に人類学コースで学んだ知識が役立つ場面は少ないですが、4年間は私にとってかけがえのない思い出です。

  • 能城 沙織さん(2010年修士課程修了)

    就職先:日立製作所

    人類は、自分のやりたいことをやりたいようにやらせてくれる場所で、本当に楽しくて充実していました。経験浅い学生なのに対等に議論してくれる先生や、研究も私生活も全て含めて私の個性を受け入れてくれる研究室メンバーをはじめとする人類の方々。今思えば失礼なことをたくさんしてきたにも関わらず、温かく受け入れてくれて、そのおかげでのびのびと研究生活を送ることができました。卒業して大学の外に出てみると、人類にいた時にどれだけ自分の力を自由に発揮させてもらえていたかがよくわかります。解剖、発掘、海外での調査、早いうちから学会で発表させてもらったり、論文を書かせてもらったり。自由にやらせてもらいつつ色々な経験をさせてもらえた人類での4年間は、とても密度の濃い、貴重な時間でした。楽しんで自由に研究したい、少し自分のことを個性的だと思う人には人類はとても居心地がよく、自分の力を伸ばせる場所だと思います。

  • 深瀬 均さん(2009年度博士課程修了)

    就職先:北海道大学大学院 医学研究科 人類進化分野(2015年現在)

    駒場のみなさん、こんにちは。私は本郷に進学して学部2年間、修士2年間、博士3年間をどっぷり人類で過ごさせていただきました。実は、進振りの第一段階では医学部に落ち、第二段階では、同じヒトを対象にするけれども今度は直接社会の役に立たない(?)人類進化というロマン溢れる領域を学んでみたいという、天邪鬼的な気持ちで理・人類の門を叩きました。3年生の時の発掘実習では岩手に行って東北大の先生方と泥だらけになったり、猿山実習では、長野でニホンザルのお尻を追いかけまわしたりと、楽しい思い出がたくさんできました。そんな興味深い野外実習を通して、研究室に完全に籠るよりフィールドにも行けるタイプの研究をしたいと思い、人骨の形態学を専門とする研究室に進学しました。本郷に進学した後に、まず人体解剖をはじめとする医学系基礎科目を学ぶことでヒトの生物学を理解してから、人類コース専門科目にて現生霊長類や人類進化の中でのヒトの生物学的特徴を多面的に掘り下げていく、というスタイルはやはり東大人類のユニークなもので、他の大学にはない教育を受けたい方にはピッタリかと思います。理学部で人類学の専門教育をしているところは国内でも京都大を除けば他にほとんどないため、私自身、博士課程を修了してから就職のために沖縄に行ったり今度は北海道に来たりしていますが、人骨の研究であることからも医学系のところにお世話になっています。就職に関しましては、アカデミックポストは一般的に就職難と言われていますが、究極的には需要と供給のバランスですので、業界分析をしながら進学などの選択をしていけば、将来は明るいはずです。また、理学系では「直接社会の役に立つ研究」という大義名分は弱いので、自身の好奇心こそが研究を続けていく直接の原動力かと感じます。「自分は一体何なのだろうか」という知的好奇心の赴くままに人類学コースを進学先に選択してみても、と思います。少人数教育なので (私の学年は8人と多かったのですが)、同期との絆もいろんな意味で深くなりますよ!