人や動物は、左右2つの鼻の穴を持ち、匂いは鼻の中では左右別々の嗅上皮(感覚器)で受け取られますが、どうして左右2つの嗅上皮が必要なのか、これまで不明でした。私達のグループの菊田周らは、ラットの大脳の嗅皮質の中にある前嗅核吻外側領域のニューロンが、「右鼻と左鼻に嗅ぎこまれた匂いの濃さを比較して、左右どちらの方向に匂い源があるかを検出する」機能をもっていることを見出しました。この匂い源の方向感知を担当する神経回路により、ラットは暗闇のなかでも、食べ物や危険物の匂いがどちらの方向から漂ってくるのかを、一嗅ぎで決定することができます。今回見つかった「においの方向」を感知する神経回路の繋がり方は、聴覚での「音の方向」を感知する神経回路とよく似ていました。耳と鼻は異なった感覚器ですが、脳は同じような情報処理ロジックをつかって、左右2つの感覚器からの音情報や匂い情報を比較し、音源や匂い源の位置情報を得ています。
本GCOEプログラム事業推進担当者
医学系研究科機能生物学専攻教授 森 憲作
図1
図2