中枢神経系における主要な神経伝達物質であるグルタミン酸は、神経伝達の混線を避けるために、個々のシナプスの中に限局していると従来考えられてきました(図1、左)。しかしながら近年、シナプスから漏れ出したグルタミン酸が、様々な脳機能に関与することが示唆されるようになりました。ただ、従来はシナプス周囲のグルタミン酸を直接観察する方法が存在せず、間接的な推定に留まっていました。そこで私たちは、グルタミン酸が結合すると明るさが上昇する蛍光指示薬を新たに設計し、脳の中のグルタミン酸動態を可視化解析しました。シナプス伝達に伴い、シナプス間隙の外側でグルタミン酸濃度が顕著に上昇することを観察しました(図2)。つまりシナプス間隙の外側でも、グルタミン酸による信号伝達が活発に起きていることを証明することに成功しました。この成果は、グルタミン酸による伝達がシナプス周囲にも拡がっていくものであることを初めて示したものです(図1、右)。脳は漏電や混線を積極的に利用し、脳の複雑な機能を実現していると考えられます。またこれは脳とコンピューターの違いを生み出すメカニズムのひとつと言えるかも知れません。
本GCOEプログラム事業推進担当者図1
図2