胃から小腸を経て大腸にいたる消化器官には腸管神経系と呼ばれる神経細胞が網目状に張りめぐらされていて、食物の消化吸収や腸の蠕動運動が正常に行われるために必須です。腸管神経系はさまざまな消化器系の病気に関わっていることが知られています。しかし、その発生の分子メカニズムは完全にはわかっていません。
今回、私達は新しく発見したKIF26Aが腸管神経系が正常に発生するために必須であることを明らかにしました。KIF26A遺伝子を人為的に破壊したマウスを作製したところ、大腸で腸管神経の細胞数が異常に増加しました。その結果、蠕動運動が正常に行われなくなり、腸の中に消化物や消化液が貯留し、巨大結腸症と呼ばれる症状が起こりました。このことからKIF26Aは腸管の神経細胞の増殖を抑制することがわかりました。
GDNF(Glial cell-Derived Neurotrophic Factor)と呼ばれる成長因子が腸管神経細胞の増殖を促すことが知られていますが、KIF26Aを欠損したマウスの腸管神経細胞ではGDNFに対する感受性があがっていました。逆に細胞内のKIF26Aの働きを強めたところ、GDNFに対する細胞の反応が抑制されました。さらに、生化学的な手法を用いてKIF26AがGRB2というGDNFシグナル伝達系の下流の分子に結合することによって働くことを明らかにしました。以上のことから、KIF26AはGDNFシグナル伝達系を抑制することによって、腸管神経細胞の増殖を抑制し腸管の形成に必須の働きをもつと考えられます。
本GCOEプログラム事業推進担当者
総合文化研究科/医学系研究科特任教授 廣川信隆
図1 KIF26Aノックアウトマウスは巨大結腸症になる
図2 KIF26AはGRB2に結合してGDNFのシグナル伝達を抑制する