東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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正常な成体の肝臓に存在する幹細胞の分離

(Development 136: 1951-1960, 2009)

 肝臓の幹細胞は肝細胞と胆管上皮細胞への分化能を備えた細胞です。胎児の肝臓にはそうした細胞が存在することはすでに知られていました。一方、成体肝臓においては、幹細胞の存在は明確でなく、重篤な肝障害において門脈域に出現するオーバル細胞と呼ばれる特殊な細胞が成体肝臓における幹細胞であると考えられていました。そこで、我々はこの細胞に発現する細胞膜分子を同定し、それに対する抗体を利用して肝臓からオーバル細胞を分離することを試みました。オーバル細胞にはEpCAMとTROP2という細胞膜タンパク質の発現が認めら、障害肝から分離したEpCAM陽性細胞には幹細胞が存在するこが示されました。一方、EpCAMは正常な肝臓の胆管にも発現することから、正常肝臓からEpCAM陽性細胞を分離して培養すると増殖性で肝細胞と胆管上皮細胞へと分化する細胞が存在することが分かりました。また、肝障害により幹細胞が増えるかどうか検討した結果、肝障害の有無にかかわらず、幹細胞の数には大きな差はないことが示されました。したがって、正常な肝臓のEpCAM陽性細胞には幹細胞が存在しており、肝障害により増えるEpCAM陽性TROP2陽性のオーバル細胞は肝幹細胞ではなく分化の進んだ前駆細胞であることが明らかとなりました。

本GCOEプログラム事業推進担当者
分子細胞生物学研究所 教授 宮島 篤

図1

上段 正常肝臓およびDDC投与により障害を与えた肝臓のEpCAM陽性細胞
下段 分離したEpCAM陽性細胞中には増殖して肝細胞と胆管上皮細胞へ分化する幹細胞が含まれる。