東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
ホーム > 研究ハイライト > 構成的に産生されるI型インターフェロンが細胞のがん化を抑制する

構成的に産生されるI型インターフェロンが細胞のがん化を抑制する

(Cancer Sci. 2009 Mar;100(3):449-56.)

生体にウイルスが感染すると、抗ウイルス応答を活性化するインターフェロン(IFN)-αやβを産生し、ウイルスを排除しようとします。これらIFN-α/βをI型IFNと呼びます。I型IFNはウイルス感染時に大量に産生される一方、ウイルス非感染時においても恒常的にわずかな量のI型IFNが、生体において作り続けられていることが知られていました。 
この恒常的に発現しているI型IFNの役割は不明でしたが、細胞が速やかにウイルスを排除できるよう、いわば準備を整えておくために重要な役割を果たしていることが、最近の私達の研究から明らかになっております。さらに今回私達は、I型IFN受容体(IFNAR1)やIFNβ遺伝子を欠損させたマウス由来の細胞を長期間培養し続けると、野生型細胞とは異なって、これら遺伝子欠損細胞が高頻度で癌化することを見出しました。この癌化した細胞を、ヌードマウスに移植すると腫瘍が形成されることも確認されました。またIFNAR1やIFNβ欠損細胞にがん原因遺伝子の一つである活性化型ras遺伝子を導入すると、やはり細胞が癌化することも明らかになりました。一方で、コントロールの野生型細胞においては、このような現象は認められませんでした。
さらに、野生型及びIFNAR1欠損 マウスの皮膚に発癌性物質であるDMBA (7,12-dimethylbenz anthracene) を塗ってパピローマ(皮膚乳頭腫)の形成について検討したところ、IFNAR1欠損マウスでは、野生型マウスよりも短期間で、多数のパピローマを発症しました。
これらの結果は、恒常的に産生されるわずかな量のI型IFNが、抗ウイルス応答における役割のみならず、抗腫瘍における役割を担っていることを示していると考えられました。今後この恒常的に産生されるI型IFNの抗腫瘍のメカニズムの詳細を解明していくことで、I型IFNによる新たながん予防法の開発に繋がると期待されます。

本GCOEプログラム事業推進担当者
医学系研究科病因病理学専攻教授 谷口 維紹

図

I型インターフェロンシグナルを欠損した細胞は、高頻度でがん化する