研究内容

1.鞭毛の規則的振動リズムを生み出す機構

筋肉と並んで生物界の中で最も重要な細胞レベルの運動系の一つは,鞭毛・繊毛運動である.鞭毛・繊毛にはダイニンというモータータンパク質が存在し,これらが微小管と相互作用して滑り運動を起こすことによって,鞭毛の周期的屈曲運動(振動運動oscillation)が起こる.ダイニンがATPの加水分解エネルギーを使ってどのように力を出して微小管の滑りを起こすのか,また,鞭毛運動の特性である周期的運動がどのような機構で起こるのかはまだ解っていない.

真行寺研究室では,鞭毛を構成する9+2構造内の中心対微小管の両側にあるダイニンが交互に活性化され,滑り運動の切り替え(スイッチング)が起こることにより,振動リズムが作られることを見いだした.

では,この周期的スイッチングはどのような機構によるのだろうか?

現在,この謎を解くことを目指して,ダイニン1分子のレベル,微小管上に並んだダイニンの滑り運動のレベル,鞭毛全体のシステムにおける運動の制御,の3つのレベルで研究を進めている.

図1-1. ウニ精子鞭毛運動とその解析法。鞭毛運動(a)と鞭毛の構造(b)の模式図と屈曲を形成する時に鞭毛内でダイニンにより起こされる滑りの模式図(c)。

図1-1. ウニ精子鞭毛運動とその解析法.鞭毛運動(a)と鞭毛の構造(b)の模式図と屈曲を形成する時に鞭毛内でダイニンにより起こされる滑りの模式図(c).

モータータンパク質の特性を見るには,タンパク質を抽出して解析する方法がある. しかし,この方法では,モータータンパク質の状態が生体内とは変わってしまう可能性がある. 私たちは,ウニ精子の鞭毛を用いて,生体内に近い条件で特性を解析する独自の新しい実験系を開発し, ダイニン1分子の特性の解析に成功した(Nature, 1998).その結果,ダイニン1分子が約6 pNの力を出すことを初めて明らかにした.さらにこの測定に際して,力の振動(オシレーション)を発見した.鞭毛のオシレーションの基本が,ダイニン1分子の中に秘められているらしいという発見は,大変興味深い.

図1-2。光ピンセット法を用いて計測したダイニン1分子の力の振動(Nature、 1998)

図1-2.光ピンセット法を用いて計測したダイニン1分子の力の振動(Nature, 1998)