土壌水分が潤沢にあっても、植物は水を自由に吸い上げられるわけではなく、根の表面積の拡張やアクアポリン(タンパク質でできた生体膜の水透過孔)の多量発現など、吸水を促進するためのコストを投資することにより、ようやく高い気孔コンダクタンスと蒸散速度を実現しているように思われる。気孔を大きく開口することで、植物は光合成、生長を促進することができる。またその結果として、植物群落からの蒸散量は最大で水面蒸発に匹敵するほどの大きさに達する。 植物体内で水を流れやすく(通水抵抗を低減)することは、光合成・生長にとって有利であるが、水欠乏の環境に遭遇した場合には水の逆流を防ぐなどの保水対策を講じることが生存に不可欠と考えられる。したがって、通水抵抗は小さいほどよいというわけでもなく、むしろ植物は、めまぐるしく変動する環境条件の違いに応じて体内の水の流れを自在に調節する必要があるのではないかと思われる。 植物のアクアポリンは、他の生物種に比べて分子種が多いことが特長で、微生物・単細胞緑藻では数種、ヒトでは13種であるのに対して、イネなどの高等植物では30種以上ものメンバーが存在し、大きなタンパク質ファミリーを形成している。これらのメンバーによって発現部位や水透過活性などが異なることも明らかにされつつある。私達のグループでは、吸水と保水の調節機構におけるアクアポリンの役割を具体的に明らかにすることをめざして、おもにイネを対象作物として研究を進めている。イネ根のアクアポリンの発現量は、地上部の蒸散要求量に応じて増加するもの、減少するもの、変化のないものなど、分子種によって様々で、必ずしも一斉に発現調節されるわけではないことが最近分かってきた。 今回は、植物の吸水機能とアクアポリンに関連した研究を通じて、地上部と地下部のむすびつきについて考えてみたい。 |
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写真説明:
「土壌水分が潤沢な水田でもイネの葉は水不足になることがある。 葉内の水分不足によって膨圧が低下し、葉が巻いている。 (東北農研センター試験圃場にて撮影 品種名:アキヒカリ )」 |