これまで樹木細根の研究は直径階による類別が主流で、1-2mm以下の直径をも つ根を「細根」として生理的に同一の器官として扱ってきた。しかし直径階によ る類別は概して便宜的に行われており、生理的な説明背景をもっていなかった。 近年の研究から、細根は直径階が同一でも呼吸速度、吸収能、死亡率が細根を構 成する個々の根で大きく異なることが示されてきている。本発表では、同一細根 系内の分枝位置の異なる個根の生理的及び生態学的機能の違いと、それらの関係 について概説する。
樹木細根系の吸収能、呼吸速度などの生理機能は、先端側から基部側に向かっ て低下する。また、C/N比、リグニン含量は増加する。分枝位置における、これ らの変化は、主として加齢とそれに伴う一次組織から二次組織を中心とした組織 構成の変化による。
一方で、個根の寿命は、根の先端から基部に向かって長くなり、細根系内の寿命 の違いは数週間から数年というオーダーで異なることが知られている。ヒノキ細 根系内の個々の根の動態を調べた結果、このような寿命の違いは、分枝位置によっ て二次成長しない個根、する個根、という先天的な生活環における違いが一因で あった。
個々の根の生活環の違いは、それぞれの死亡時における組織構造や化学性の違い を意味し、土壌における分解基質としての役割の違いに反映される。細根系にお ける物質循環上の役割は、根系構造内の機能の違いによって異なる。
これらのことから、先端に吸収型の根が配置され、基部側に支持通導型の根を配 置する細根系構造は、単純に頂端分裂組織からの距離に従う加齢傾度によるので はなく、個根の寿命と再生の違いを介して、断続的な齢構成によるものであり、 細根系構造内の生理、生態系機能の違いを生じていると捉えられる。