これまでの研究から、陸上に進出した初期の植物は側生する葉状器官(以下、葉と呼ぶ)を有しておらず、複数の過程を経て葉を獲得したことが示唆されている。この陸上植物における葉の獲得は、植物の光合成の効率化、および放出される酸素は地球の大気組成の変化をももたらした。この大気組成の変化は、それに続く動物の陸上進出の一助となったことも示唆されている。したがって陸上植物における葉の獲得は、地球史にとっても重要なイベントの一つであると言える。しかしながら最も根源的な問いである、『植物がその進化の過程でどのような分子機構により葉を獲得したのか』という命題は未だ明らかになっておらず、それに関連する遺伝子や分子機構はおろか、その過程の理解も進んでいない。そこで塚谷研究室では、複数のモデル植物を用いた比較トランスクリプトームによりこの命題を明らかにすることを目指している。具体的には、現存する被子植物において、系統樹上で最も基部に位置するAmborella trichopodaを含むゲノム情報が明らかになっている複数の植物を用いて、葉原基などのトランスクリプトームを行なう。得られたデータから葉の形態形成に関わる遺伝子ネットワークを構築し、種間でのネットワークの比較を行なう。それらを基部の陸上植物と比較することで、葉の形態形成に関わる遺伝子ネットワークが植物の進化の過程でどのように変化してきたのか、それがどのように葉の獲得に繋がったのかを明らかにしたいと考えている。

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