かつて水中から陸上に進出した植物の中には、再び水辺や水中に適応した、一般に水草と呼ばれる植物がいる。水辺は常に水没の危機にさらされており、水中では光合成を阻害する要素が多いため、普通の陸生植物はうまく成長できない。そのため、水草は水辺環境への適応として様々な形質を進化させてきた。たとえば、季節的または突発的に水位が変動する環境に対しては、同じ個体が水中でも陸上でも成長できる水陸両生の生活型を獲得し、その実現方法として水生時と陸生時とでは大きく異なる形態の葉を作る能力、異形葉性を進化させてきた。私達はオオバコ科の水草アワゴケ属Callitricheを用いて、異形葉の発生機構およびその進化機構を研究している。アワゴケ属は、水陸両生のミズハコベ(C. palustris)、陸生のアワゴケ(C. japonica)、完全水生のチシマミズハコベ(C. hermaphroditica)など、属内に多様な生活型の種を含み、また植物体が小さく研究室内での育成が容易なことから、発生研究に適した材料である。これまでの研究で、ミズハコベのもつ顕著な異形葉の発生の仕組みの解明に取り組んできた。また、アワゴケ属内の生活型の違いは、ガス交換器官である気孔の分布、およびその形成過程の違いと相関していることも見いだした。アワゴケ属の材料とした比較発生学的、及び比較ゲノム学的アプローチによって、植物の水環境への形態的な適応過程を明らかにしようとしている。またオオバコ科には他にも独立に水辺に進出したグループがあり、そうした植物も材料に用いて研究の展開を目指している。

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