暗記ではない生物学へ
令和8年4月1日
東京大学・理学部生物学科長
太田 博樹
生物学は理系の学問でありながら「暗記科目」と捉えられることがあります。これはおそらく、生物学が扱う現象が、分子、細胞、組織、器官、個体、個体群、群集、生態系といった複数の階層にまたがり、それらが不可分に関連し合っているため、記述的になりやすいからだと思われます。また、生物学が物理学や化学に比べて博物学として発展してきた歴史を長く持つことも影響しているかもしれません。その意味で、現代生物学は自然科学の中でも比較的新しい学問と言えます。
本学科は、1877年の東京大学創設時に理学部に生物学系が置かれたことに始まり、1886年の動物学科・植物学科、1939年の人類学科の設置を経て発展してきました。ここで展開されてきた研究は、明治期の博物学・分類学の伝統を基盤としつつ、実験を核とする研究への展開、さらにタンパク質やDNAなど分子レベルへの深化、数理的手法の導入や情報科学との融合へと至る、連続的なパラダイム転換の積み重ねに支えられています。特筆すべきは、分子化・情報化が進展する中にあっても、本学科ではマクロな生物学が組織的に維持され、学際的統合の中で活かされてきた点にあります。
現在、生物学は新たな段階に入りつつあります。生命現象の理解はますます深化する一方、未知の領域も拡大し続けています。人工知能(AI)が注目される時代にあっても、生物学は依然として広大なフロンティアです。私たち教員一同は、このダイナミックな領域に、皆さんが飛び込んできてくれることを期待しています。本学科に集い、ともに未来の生物学を切り拓いていくことを心から願っています。