研究内容

5.ヒトの知性を生み出す脳の構造的・進化的基盤

私たちヒトと他の動物を隔てる違いの多くは、言語を用いたコミュニケーションや論理的に思考する事など、複雑な認知機能において観察されます。それらの「ヒトらしい」認知機能の多くは大脳皮質という脳領域の活動により生じます。ヒトはチンパンジーやゴリラと比べ、数倍大きな大脳皮質を持ち、それにより情報処理能力が向上したと考えられています。また、私たちの体の設計図であるゲノム情報を比較することにより、チンパンジーやゴリラにはなく、ヒトだけが持つ「ヒト固有遺伝子」が見つかっています。ヒト固有遺伝子の中には、脳の発達過程で重要な働きをするものが存在していて、例えば、私たちはNOTCH2NLというヒト固有遺伝子が、神経細胞の数を増やし、脳を大きくする効果を持つ事を明らかにしました。ヒト固有遺伝子は脳の進化の駆動力となった可能性があることに加え、ヒトの先天性神経発達疾患(小頭症や巨頭症)とも関連していることが報告されていて、脳の病気を理解するためにも重要だと考えられます。私たちは、比較ゲノム解析とヒト多能性幹細胞を用いた大脳皮質形成モデルを活用することにより、ヒト大脳皮質の進化のメカニズムを、(1)ゲノム、(2)細胞、(3)脳の組織構造や神経回路、(4)疾患等の個体レベルでの表現型、という複数の階層から解明したいと考え、取り組んでいます。

○キーワード○
大脳皮質形成
神経新生
大脳皮質の進化
ヒト多能性幹細胞(ES細胞およびiPS細胞)を用いた大脳皮質形成モデル
ヒト固有遺伝子
遺伝子重複
比較ゲノム
神経発達および神経変性疾患
NOTCH2NL

【参考文献】
Suzuki et al Developmental Cell 22 863 (2012)
Suzuki et al Cell 173 1370 (2018)

ヒトES細胞から分化誘導した大脳皮質細胞。神経幹細胞(青)と神経細胞(赤)が含まれ、細胞の形態を観察するために一部の細胞にGFP発現が導入されている(緑)。