東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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2009年度 UCSF Developmental Biology retreat 報告書

理学系研究科生物科学専攻 動物発生学研究室 山元孝佳

 この度、2月7-8日に行われた、カリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF)のDevelopmental biology retreatに参加し、ポスター発表を行った。また、その前後には、UCSFやスタンフォード大学、UCロサンゼルス校といった世界有数の大学研究室を訪問する機会を得た。いずれの研究室でも、研究内容だけでなく、研究者としての将来など多岐にわたる議論を行うことが出来た。その一端をここに報告する。

 多くのPIの方々との会話の中で、最も印象的だったのは、今の研究内容だけに固執した議論だけでなく、将来の研究に対するビジョンの話が多かったことである。そして、その事を楽しそうに話しながら、「君はどう思う?」としきりに質問が飛んできた。研究に対する情熱を感じると同時に、研究を楽しむ姿勢を強く感じ、今後さらに高く広い視野を持って、深い洞察の下、楽しみながら研究を行う必要性を痛感した。

 T. Kornberg博士と朝食を共にしたときには、このような質問をされた。

 「プロの音楽家は毎日何をしている?」

 彼の趣味はチェロを演奏することである。思わぬ質問に一時呆気に取られたが、その答えは「毎日練習している」である。彼曰く、これは研究者の姿と重なる部分が多いという。それは、毎日淡々と基礎練習を積む姿が、日々実験をコツコツと行う姿に似ているということだ。彼にとって、毎日のチェロの基礎練習が、日々の実験の集中力を養うため役立っているという。また、趣味に興じるといった、その時間が大切であるという話もあった。一回全てを忘れて、そこで実験に戻る。この切り替えが新たな発想を生むのである。普段話すことが出来ない大御所の先生方と寝食を共にし、趣味が研究に生きているといった思わぬ研究に対する姿勢に出会えるのもリトリートの醍醐味である。

 同年代の研究者にも、大きな刺激を受けた。RIP (research in progress)と呼ばれる研究報告会に参加した際には、研究室内だけではなく、様々な研究室の学生が参加し、質問が飛び交っていた。日常的に研究室の枠を超えた議論がなされていることはうらやましく感じると同時に、質問の積極性に驚嘆した。しかし、土日はばっちり休みとしている学生が多い。実験に向かう時間が少なくとも、効率よく結果を出すための綿密な計画、ダラダラやるのではない切り替えがあった。また、ポスドクとして、研究者としての将来像を互いに共有できたことも今後研究を行う上で大きな糧となる。

 体制としての日本との違いは、研究の為の環境づくりである。既に自明のことであるが、日本では大学院生に対する経済的援助が非常に少ない。しかし、アメリカでは、”院生には給料を払うもの”であり、金銭的な理由で博士課程に行くことを断念することは少ない。また、試薬や培地などは専門のスタッフが用意してくれる。教員についても、特に申請書などについては、大学に校正専門のスタッフがおり、必要以上に雑務に追われることがない。すなわち、教育・研究を重視する体制・環境が出来ているといえる。

 井の中の蛙であってはならない。外を見ること、大海を知ることで、自ら、そして日本のあるべき姿が見える。今後もこのような素晴らしいプログラムが継続されることを願う。

 最後になりましたが、本プログラムでの海外派遣に多大なご尽力を賜りました多羽田哲也先生、UCSFのThomas B. Kornberg博士、快く迎えてくださいました研究室の諸先生方、派遣を推薦してくださいました指導教員の武田洋幸先生をはじめとする多くの方々に、この場を借りて心より感謝申し上げます。