東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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緑藻の「光の好き嫌い」を決定する細胞内シグナル

(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 108, 11280-11284., 2011)

鞭毛で泳ぐ単細胞の緑藻は、光の方向に向かって泳ぐ行動(正の走光性)とその反対方向に泳ぐ行動(負の走光性)を示し、それらの行動パターンを適宜切り替えて、適当な明るさの下に集まります。しかし,同じ細胞でも走光性の正負はまちまちであることが多く、泳ぎの向きを決めている細胞内の要因は分かっていませんでした。一方、多くの細胞には細胞内の酸化還元状態(レドックス状態)を調節するしくみが備わっており、最近、その状態の変化が生理現象の調節シグナルとなっていることが明らかにされています。今回私たちは、緑藻クラミドモナスを使って、細胞内のレドックス状態が走光性の向きを切り替える重要な因子であることを見出しました。たとえば、活性酸素種(H2O2など)を用いて細胞内を酸化的にすると、走光性は正の方向になり,活性酸素種消去剤(ジメチルチオ尿素など)を用いて還元的にすると、走光性は負の方向になることがわかりました。この研究は単細胞生物の行動を調節する基本的因子を発見すると同時に、ヒトでも重要な役割を果たしている繊毛の運動調節にレドックス状態が関与している可能性を示唆するものです。

本GCOEプログラム事業推進担当者
理学系研究科生物科学専攻教授 神谷 律

図1.単細胞緑藻クラミドモナス。眼点で光を感じ,2本の鞭毛を平泳ぎのように動かして泳ぎます。

図1.単細胞緑藻クラミドモナス。眼点で光を感じ,2本の鞭毛を平泳ぎのように動かして泳ぎます。

図1.単細胞緑藻クラミドモナス。眼点で光を感じ,2本の鞭毛を平泳ぎのように動かして泳ぎます。

図2.走光性の観察。クラミドモナスの野生株と,強い負の走光性を示す変異株agg1の培養液をディッシュにいれ,右から光を当てた状態。どちらの株も,酸化処理をすると正,還元処理をすると負の走光性を示しました。