東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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植物に特異的な膜交通経路とそこで機能する膜融合装置の発見

(Nature Cell Biology 13: 853-859, 2011)

真核生物の細胞内には、細胞小器官(オルガネラ)が多数あり、それぞれ独自の機能を持っています。オルガネラは、膜で囲まれた小胞や細管を介してお互いの内容物をやりとりすることにより、タンパク質などの物質を細胞内の必要な場所へ輸送しています。この輸送の仕組みは「膜交通」と呼ばれます。植物の系統は、はるか昔に動物や菌類の系統と分かれたのち、様々なオルガネラ機能を独自に進化させてきました。新しいオルガネラが生まれると、新たな膜交通経路も同時に必要となります。しかし、新しい膜交通経路が生まれる仕組みはこれまで分かっていませんでした。

理学系研究科生物科学専攻の中野明彦教授,海老根一生特任研究員(現 国立感染症研究所所属),上田貴志准教授らの研究グループは、植物にしか存在しない膜交通制御因子を発見し、その分子機能を調べました。その結果、植物は動物とは全く異なる独自のARA6とVAMP727という分子を使って、エンドソームから細胞膜への膜交通経路を編み出していたことが分かりました(図1)。さらに、植物に特異的なこの膜交通経路が塩ストレスに対する耐性に関わっていることも明らかになりました。

本GCOEプログラム事業推進担当者
理学系研究科 生物科学専攻 発生生物学研究室・教授 中野 明彦

図1:ARA6 (RAB GTPaseの一種)とVAMP727 (SNAREタンパク質の一種)はともに,植物が進化の過程で独自に獲得した膜交通制御因子である.これらの分子が,エンドソームから細胞膜へと物質を輸送する経路ではたらいでいることが明らかとなった.

図1:ARA6 (RAB GTPaseの一種)とVAMP727 (SNAREタンパク質の一種)はともに,植物が進化の過程で独自に獲得した膜交通制御因子である.これらの分子が,エンドソームから細胞膜へと物質を輸送する経路ではたらいでいることが明らかとなった.