東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
ホーム > 研究ハイライト > メダカ左右軸突然変異体からヒト繊毛病へ:ダイニン前駆体形成に必須な新規遺伝子を発見

メダカ左右軸突然変異体からヒト繊毛病へ:ダイニン前駆体形成に必須な新規遺伝子を発見

(Nature, 456, 611-616, 2008)

脊椎動物の内蔵などの配置は左右非対称的で、その過程は遺伝的に決まっています。今回のメダカ変異体は、内臓配置がランダムになる左右軸喪失の変異体です(図A)。さらに必ず腎臓肥大を発症し、下腹部がふくれ背筋が曲がります(図B)。この姿が孫悟空の筋斗雲(きんとうん)に似ていることから、変異体はkintoun (ktu)と名付けられました。解析の結果、変異体では繊毛のダイニンアームが欠失するために運動性が喪失していることが判明しました(図C)。その原因遺伝子は、脊椎動物から単細胞生物(クラミドモナス)まで保存された新規遺伝子でした。さらにH. Omran教授との共同で、繊毛病を発症する2家系でktu遺伝子の変異があること、またD. R. Mitchellおよび神谷律教授(生物科学専攻)との共同で、クラミドモナスの変異体pf13(鞭毛の運動性喪失)の原因遺伝子もktuと相同であるこが判明しました。渡邊嘉典教授(分子細胞学研究所)などの協力を得た機能解析の結果、Ktuタンパク質は細胞質中でのダイニン前駆体の形成に必須であることがわかりました。今回の研究がきっきかけとなり、不明な点が多いダイニン前駆体の形成メカニズムの理解が進むことが期待されます。

本GCOEプログラム事業推進担当者
理学系研究科生物科学専攻教授 武田 洋幸
理学系研究科生物科学専攻教授 神谷 律
分子細胞生物学研究所教授 渡邊嘉典

図

メダカktu 変異体の表現型
(A) 受精後3日目の胚。白線は心臓。変異体は左側へループしている。
(B) メダカ成体(3ヶ月)。 変異体の腹部が膨らみ背骨が湾曲している。
(C) 運動中の精子。変異体の精子鞭毛の運動は異常。
(D) 鞭毛、繊毛の軸糸の断面図。変異体はダイニンアームを欠失している。