東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
ホーム > 研究ハイライト > 記憶形成に必要なタンパク質CASY-1の発見

記憶形成に必要なタンパク質CASY-1の発見

(Proc Natl Acad Sci U S A., 105: 5260-5265., 2008)

通常線虫は食塩の濃い方へ寄りますが、あらかじめ空腹状態の線虫に食塩を与えると、その線虫は食塩を避けるようになります。私たちはこの現象を化学走性学習と呼んでいます。カドヘリン様膜タンパク質CASY-1に異常のある変異体が正しく学習できなくなることを、大学院生の池田らは発見しました。このタンパク質は進化の過程で高度に保存されています。興味深いことに、ヒトのCASY-1ホモログであるカルシンテニン2遺伝子の多型が、記憶力と相関していることが報告されています。また、カルシンテニンはAPP(アミロイド前駆タンパク質)とともに神経内でセクレターゼにより切断され、老人斑に共局在することが知られています。その一方で、カルシンテニンの機能についてはほとんどわかっていませんでした。今回、哺乳類カルシンテニンと同じくCASY-1がタンパク質切断されることを示唆する知見を得ました。さらに、細胞外の領域だけで学習機能に十分であることがわかりました。以上の知見は、哺乳類カルシンテニンと記憶形成、あるいはアルツハイマーとの関係性を詳細に調べていく上で、今後有力な手がかりとなることが期待されます。

本GCOEプログラム事業推進担当者
理学系研究科生物化学専攻教授 飯野 雄一

線虫の脳で作られたCASY-1は切断を受け、細胞外断片が放出される。その断片がおそらく神経細胞に働きかけることで、特定の化学物質を嫌う学習が可能になる。

線虫の脳で作られたCASY-1は切断を受け、細胞外断片が放出される。その断片がおそらく神経細胞に働きかけることで、特定の化学物質を嫌う学習が可能になる。