細胞分裂期の正確な染色体分配は、分配された一組の染色体が1つの核に収まることで完了します。しかし、どのようにして「個々の染色体」ではなく「一組の染色体全体」のまわりに核膜が形成されるのか、その分子メカニズムは不明でした。山本雅研究室の大杉らは、染色体結合キネシン(クロモキネシン)Kid/Kinesin-10が“分裂後期染色体コンパクション”と呼ばれる分配中の染色体の一塊化を担うことでこの過程に寄与していることを見出しました。Kid遺伝子欠損マウスの初期胚では、分配中にまとまりきれず集団から離れてしまう染色体が高頻度に出現し、多核が形成され、約半数の胚が着床前に致死となります。Kidは体細胞においても染色体コンパクションを担っているにもかかわらず、Kid欠損による多核化は受精後の雌前核形成時と数回の卵割分裂時にのみ見られました。このことから、卵細胞に蓄積された母性因子依存的な分裂時の正常な核形成には特にKidによる染色体コンパクションを必要としていることが示唆されました。カエルなど急速な卵割を行う種とは異なる、哺乳動物の初期卵割胚の特性の解明につながることが期待されます。
本GCOEプログラム事業推進担当者
医科学研究所教授 山本雅