東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻

Department of Biological Sciences
Graduate School of Science
The University of Tokyo

内部情報 【10/17】人類学演習・談話会『急速な適応放散と文化による種分化加速のメカニズム ―分散力の進化的低下に着目して』

人類学講座・人類学セミナー

【10/17】人類学演習・談話会『急速な適応放散と文化による種分化加速のメカニズム ―分散力の進化的低下に着目して』

日時: 2025年10月17日(金) 16:50-18:35
場所: 理学部2号館201号室
演者: 山崎 剛史  先生(山階鳥類研究所・高知工科大学)
演題: 急速な適応放散と文化による種分化加速のメカニズム ―分散力の進化的低下に着目して
主催:
共催:
後援:

要旨

カラス類は、その認知能力の高さから「羽の生えた類人猿(feathered apes)」ともよばれる。本発表では、八重山諸島に固有のオサハシブトガラスCorvus macrorhynchos osaiが近接した島間で発達させた著しい行動的・形態的・遺伝的差異を説明するために構築した2つの新しい種分化理論を紹介する。これら2つの理論はいずれも分散力の進化的低下を根幹としている。

1.急速な適応放散のメカニズム
急速な適応放散のメカニズムは長年の研究にもかかわらず未解明のままである。私たちは、分散力が進化可能であるという経験的によく支持される前提を、古典的な群島モデルに最小限の拡張として導入し、個体ベースのシミュレーションを行った。島間に環境の不均質性があると、強い遺伝子流動のもとでも局所適応が進み、結果として出生地からの移動(分散)に負の自然選択がかかるようになる。先行して突然変異が生じた島では、分散力の進化的低下が進むものの、他島からの移民流入が続くため、中程度で停止する。最後の島でも分散力の進化的低下が始まると、移民の供給源が絶たれる結果として分散力が急速に失われ、すべての島集団が一斉に異所的種分化プロセスを開始するに至った。この同期メカニズムの存在は、急速な適応放散が分散力の進化可能性という単純な原理から自然に導かれるものであることを明らかにしている。
* Yamasaki & Kobayashi 2024. Evolving dispersal ability causes rapid adaptive radiation. Sci. Rep. 14. 15734.
 
2.文化による種分化加速のメカニズム
文化は、遺伝的形質との共進化により、アナジェネシス(種内の進化)を加速する。しかし、文化がクラドジェネシス(種を増やす進化、種分化)に与える影響はよくわかっていない。本研究では、文化を組み込んだ集団遺伝学のシミュレーションを用い、最も一般的なクラドジェネシスである異所的種分化における文化の役割を解析した。その結果、親から受け継がれる生誕地固有の知識(文化的局所適応)が分散を忌避する自然選択を生み出し、地理的バリアを強化する結果として、異所的種分化の急加速が起きることが判明した。この理論は、動物学、人類学で得られてきた幅広い経験的知見を説明する。また、エピジェネティクスを「広義の文化」とみなすことで植物や菌類などにも適用できる。アナジェネシスとクラドジェネシスの両方を加速する文化を無視して、生物進化を理解することはもはやできない。
 
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<今度の予定>
10月 24日 鈴木 郁夫 先生(太田)
   31日 サル山実習のため休講
11月   7日 澤浦 亮平 先生(荻原)
   14日 河村 正二 先生 

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