東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻

Department of Biological Sciences
Graduate School of Science
The University of Tokyo

内部情報 第1533回生物科学セミナー『進化生態学を多方面に展開する研究事例と今後の悩み』

生物科学セミナー

第1533回生物科学セミナー『進化生態学を多方面に展開する研究事例と今後の悩み』

日時: 2025年9月12日(金) 16:50-18:35
場所: 理学部2号館223号室及びZoom
演者: 深野祐也 准教授(千葉大学大学院園芸学研究科)
演題: 進化生態学を多方面に展開する研究事例と今後の悩み
主催:
共催:
後援:

要旨

演者はこれまで、外来種管理、雑草防除、農業生産、都市化など、多様なトピックに対して進化生態学的な視点から幅広く研究を行ってきた。たとえば、都市のヒートアイランド現象が植物の耐熱性進化を促す事例を報告したり(Fukano et al. 2023)、果実の追熟に適応的意義があることを世界で初めて提案・実証したりしている(Fukano & Tachiki 2021)。さらに、虫嫌いといった忌避感情や都市の緑がもたらす癒し効果といった人間の環境心理に進化生態学的知見を応用する試みも展開している(Fukano & Soga 2021, 2023, 2024, 2025)。また、農学系の学部で職を得たということもあり、農業ICTに生態学的な手法を導入する研究も展開してきた(Fukano et al. 2021など)。ここ数年は、研究室の学生と一緒に、現代社会における新たな生態学的課題である「脱炭素対策と生物多様性保全のコンフリクト」を解決する研究を行っている。具体的には、営農型太陽光発電、メガソーラー、水田の中干しといった脱炭素施策と生物多様性保全を両立させるための研究である。こうした基礎から応用まで多方面への研究展開は、現代社会における生態学の学際的な有用性を示すうえで意義深いと考える一方で、一人の研究者が担うには重すぎ、その持続可能性には課題も感じている。本セミナーでは、これまで取り組んできた多様な研究の概要を紹介するとともに、なぜこのような研究スタイルに至ったのか、その背景にある考えを共有したい。また、学際的研究の推進と持続可能なキャリア形成との両立について、参加者の皆さまと悩みを議論できれば幸いである。

参考文献

Fukano, Y., Yamori, W., Misu, H., Sato, M. P., Shirasawa, K., Tachiki, Y., & Uchida, K. (2023). From green to red: Urban heat stress drives leaf color evolution. Science advances, 9(42), eabq3542.
Fukano, Y., & Soga, M. (2025). The biophilia hypothesis revisited: back to basics, moving forward. Trends in Ecology & Evolution.

担当

東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・植物進化生態学研究室
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