第1497回生物科学セミナー
共生微生物による昆虫の表現型変容および進化
深津 武馬 主席研究員(産業技術総合研究所生物プロセス研究部門)
2024年09月20日(金) 16:50-18:35 理学部2号館223号室及びZoom
非常に多くの生物が、恒常的もしくは半恒常的に微生物を体内にすまわせている。共生微生物は消化困難な食物の消化、必須栄養素の供給、寄生者や病原体への防御、環境ストレスへの耐性など、宿主生物にさまざまな有用機能を付与する例が知られる。一方で、さまざまな病徴や生存力の低下、必ずしも適応的とは言えない表現型の変化をもたらすこともあり、またそのような有利・不利はさまざまな環境条件や生態的文脈の中で変動する。体内に他の生物が恒常的に存在するということは、その宿主生物のあらゆる表現型に無視できない影響を与える可能性がある。寄生的な共生者が宿主生物の行動や、生殖や、形態を劇的に操作する現象は、ハリガネムシによるカマキリの入水行動、ボルバキアによる宿主昆虫のオス殺し、アブラムシやタマバチによる植物の虫こぶ形成など枚挙にいとまがない。一方で相利的な共生者についてはどうなのか?お互いがいた方が相互に適応度が上がる、あるいはお互いなしではもはや生きていけないような共生関係においては、宿主―共生者相互作用の中でどのような表現型変容が進化するのだろうか?今回は特に昆虫―微生物共生関係における宿主表現型変容について、背景、展望、そして私たちによる具体的な取り組みを紹介する。
参考文献
Hosokawa T, Fukatsu T (2020) Relevance of microbial symbiosis to insect behavior. Curr Opin Insect Sci 31: 91-100.
https://doi.org/10.1016/j.cois.2020.03.004
Moriyama M et al. (2022) A mucin protein predominantly expressed in the female-specific symbiotic organ of the stinkbug Plautia stali. Sci Rep 12: 1182.
https://doi.org/10.1038/s41598-022-11895-1
Koga R et al. (2021) Host’s guardian protein counters degenerative symbiont evolution。PNAS 118: e2103957118.
https://doi.org/10.1073/pnas.2103957118
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https://doi.org/10.1016/j.cub.2014.08.065
Hosokawa T et al. (2008) Symbiont acquisition alters behaviour of stinkbug nymphs. Biol Let 4: 45-48.
https://doi.org/10.1098/rsbl.2007.0510
担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・細胞生理化学研究室