第1496回生物科学セミナー

博物館標本に基づく研究の展開:分類学から化石,環境DNAまで Advancing research using museum specimens: Applications in taxonomy, paleontology, and environmental DNA studies 

岡西 政典 准教授(広島修道大学人間環境学部)

2024年12月11日(水)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

博物館標本は,過去から現在に至るまでの生物の多様性を保存し、形態学,生態学,保全学などの動物学分野の研究に広く用いられる重要な資料である.演者はこれまで,博物館標本を基に,クモヒトデ綱の形態に基づく記載分類や,DNAの部分配列に基づく系統の再構築などの「スタンダードな」研究を行ってきたが,近年は,化石や環境DNA解析といった研究も開始している.化石研究に関しては,神奈川県より国内初となるクモヒトデの骨片化石を発見し,ここから古環境を推定することが可能であることを示した.その後茨城県,愛媛県,広島県,沖縄県の地層からもクモヒトデの骨片化石を認めており,日本中の地層にクモヒトデの骨片化石が分布していることが示唆されつつある.また2022年にはクモヒトデを用いた環境DNAメタバーコーディング解析に着手し,現在までに相模湾,伊勢湾,瀬戸内海,太平洋深海域の海水の解析を行い,各所から現地の生息種の検出に成功している.現在のところメタバーコーディングでは概ね目視によるサンプリングよりも検出種数が多く,モニタリング法として優れた成績を得ている.DNA検出の季節性の把握などを進めており,最終的には「バケツ一杯の水をくむだけ」という作業で,海底に生息するクモヒトデ綱の種多様性を把握する方法を開発したいと考えている.このような研究の基盤となったのは,紛れもなく,これまでに収集された「博物館標本」である.本セミナーでは,上記の研究に触れつつ,博物館標本が持つ可能性と,それを元に展開できる研究の可能性について紹介したい.

参考文献
1.O'Hara, T. et al. (2017) Restructuring higher taxonomy using broad-scale phylogenomics: the living Ophiuroidea. Molecular Phylogenetics and Evolution. 107: 415-430
2.Okanishi, M. et al. (2022) Overlooked biodiversity of brittle stars from the Upper Pleistocene of Japan: descriptions of fossil ossicle assemblage in Indo-West Pacific. Historical Biology. 34: 2110—2124.
3.Okanishi, M. et al. (2023) Development of two new sets of PCR primers for eDNA metabarcoding of brittle stars (Echinodermata, Ophiuroidea). Metabarcoding and Metagenomics. 7: e942298.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・進化系統学研究室