第1493回生物科学セミナー

アリの社会的情動:道しるべフェロモンによる認知機能の変化

北條 賢 教授(関西学院大学生命環境学部)

2024年10月30日(水)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

社会性の動物は、他者との相互作用を介して、自身の社会行動や認知機能を複合的に変化させます。「情動」はそのような一連の変化を引き起こす神経機構の一つです。負の情動状態にある動物は、一時的に不動状態になり、心拍数を増加させ、曖昧な事象に対しては悲観的な判断をするようになります。真社会性昆虫として知られるアリは、フェロモンを介した個体間相互作用が発達しています。たとえば、餌(報酬)を発見したアリは、道しるべフェロモンと呼ばれる匂い物質を分泌しながら巣に帰ることで、仲間を餌場へと動員します。このようなフェロモンは、個体の行動に限らず、他個体の生理状態や認知機能にも影響を及ぼすと考えられています。本セミナーでは大規模な行列を形成するアミメアリを用いて、道しるべフェロモンがアリの感覚閾値、記憶・学習、歩行活動、認知バイアス、生理状態に与える影響を調べた最近の成果を紹介し、フェロモンがアリの情動状態に与える影響について議論します。

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・附属臨海実験所