第1492回生物科学セミナー

ラン科クモキリソウ族の系統、進化、菌共生

堤 千絵 研究主幹(国立科学博物館植物研究部)

2024年10月23日(水)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

狭義には日本で20種ほどが知られるグループで、地生から着生へ進化とした種や、現在は南硫黄島のみに生育するシマクモキリソウなど絶滅の危機にある種、分類が混乱し未解決な種もある。さらに菌パートナーに対して高い種特異性をもつ点でも面白いグループである。ラン科植物は種子発芽時より菌類との共生が必要で、解析した種は共生培養しても、本来の菌あるいはその類縁系統の菌とでしか発芽・生育しない。スズムシソウの胚の内部構造を観察すると、菌共生による発芽・生育には、菌糸の侵入、胚の基部側細胞での菌糸の制御が重要で、非スズムシソウ菌種ではいずれかの段階で共生が妨げられることが明らかになっている。mRNA-Seq解析から菌糸の侵入時にはCSG(common symbiotic genes)として知られる遺伝子で発現量に差が見られる。本セミナーでは、ラン科クモキリソウ属の系統、着生性の進化や共生培養を用いた保全、ならびに、菌根共生系の成立に関する研究事例を紹介する。

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・附属植物園