人類学演習・談話会
歯の人類学:サピエンスとスンクス
森田 航 先生(国立科学博物館 人類研究部)
2024年07月12日(金) 16:50-18:35 理学部2号館223号室
発表者は歯の形が、なぜ、どのように変わるのか、を明らかにすべく研究に取り組んでいる。その中でも現在取り組んでいる主要な2つの研究テーマについて紹介する。
一つ目が、後期更新世のレバント地域の人類化石サイトであるウチュアズリ洞窟における発掘調査と、出土した歯化石の形態解析である。ホモ・サピエンスと、ユーラシア西部を中心に広く分布していたネアンデルタールとは長らく共存していたが、後期更新世のレバント地域において、交雑が起きたのではないかと推測されている。両集団の交流の様相を明らかにすべく行った歯の形態解析からは、6-5万年前頃まではサピエンスとネアンデルタールが極めて近接して生活していた可能性が示された一方で、それ以降は、サピエンスに置き換わっていくとの見通しが得られた。
紹介する二つ目の研究テーマは、真無盲腸目の実験動物であるスンクスを用いた歯の形態変異を制御する遺伝領域の検出である。スンクスはユーラシア大陸南部に生息する大型の系統と、東南アジアの島嶼部に生息する小型の系統に大別される。発表者らは、これら2系統を交配させF2世代個体群を作出し、μCTを用いて3次元再構成した歯の形状とゲノムとの関連解析を進めている。上顎のそれぞれの歯種ごとにゲノムワイド関連解析を行った結果、全ての歯種において細胞の成長や発生プロセスに関与する遺伝子群との関連が高かったが、歯種ごとに異なる遺伝子セットを用いていることが示唆された。加えて、歯種間の類似性を定量化し、歯列全体の変異とそれを制御する遺伝領域との関連を明らかにする試みや、さらに歯種分化や歯種間・内の形態的勾配をもたらす遺伝基盤を探索するプロジェクトについても紹介したい。
-------------------------
<今後の予定>
7月 19日 西村 瑠佳 先生(太田) ※今期最終回