人類学演習・談話会
文化人類学から「庭」の人類学へ —民族誌・イメージ・自然—
箭内 匡 先生(東京大学大学院総合文化研究科)
2024年07月05日(金) 16:50-18:35 理学部2号館201号室
私は近年、文化人類学の拡張としての、「自然の人類学 anthropology of nature」という領域(他の名前で呼ばれることも多いが、いずれにせよ今日の文化人類学で重要な一潮流をなしている)で仕事をしてきており、生物学全般にも大きな興味を抱いている。しかし、1980年代に東大で文化人類学を学んでいた頃、私を含め、皆の関心は自然人類学や生物学とは全く異なる方向を向いていた。その意味で私は長い道のりを経て現在の見方にたどり着いたといえる。本談話会では、この40年ほどの私自身の歩みの中から3つの素材を選び、この「自然の人類学」に至る過程で私が通ってきた道が、自然人類学の教員や学生の皆さんのご研究とどのように交差しうるのか、議論の素材を提供してみたい。
私が1980年代に学んだ文化人類学は、簡潔にいえば「文化」・「社会」に強く焦点化したものであり、その中で私は南米先住民の民族誌的研究を志した。しかし、博士論文のために先住民マプーチェのもとで行った長期調査で、様々な揺れや亀裂を含んだフィールドの民族誌的現実を捉えるのに「文化」・「社会」は余りに荒っぽい概念であることを思い知らされ、そこから、そういった揺れや亀裂を見失わないような理論的精度をもつ新たな文化人類学の構築を目指すことになる。その結果出てきたのはもはや「文化人類学」ではなくて、「イメージの人類学」と呼ぶべきものであった(同名の拙著を参照)。このパースペクティブは、一方で映像人類学のような領域と通じ合うとともに、他方で、1990年代から興隆してきた存在論的人類学や2000年代から出てきたマルチスピーシーズ民族誌とも通じあうものであり、この後者が「自然の人類学」の領域を構成する。
本談話では、マプーチェの民族誌的研究、ジャン・ルーシュの民族誌映画、そして現在考察をめぐらせている「庭」の人類学、の3つの内容をコラージュのように重ね合わせつつ、この歩みの中でどのような考察が可能になってきたのかを、なるべく手触りのある形でお伝えしてみたい。
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<今後の予定>
7月 12日 森田 航 先生
19日 西村 瑠佳 先生(太田) ※今期最終回