第1504回生物科学セミナー

ライフステージに応じて柔軟に社会性行動を司る視床下部神経回路 Flexible Control of Innate Social Behaviors by Hypothalamic Neural Circuits Across Life Stages

苅郷 友美 Tomomi Karigo(Kennedy Krieger Institute, Johns Hopkins University School of Medicine, Department of Neuroscience)

2024年07月19日(金)    17:00-18:00  理学部2号館223号室及びZoom   

動物は多様な生得的社会性行動を示し、これらの行動は生存および繁殖に不可欠なニーズを満たすため生涯を通じてダイナミックに変化する。新生児は母親のケアを求めて特徴的な鳴き声を上げ、幼若期の個体は年が近い仲間との遊び行動を通じて複雑な社会性行動を学習していく。さらに思春期に達すると、交尾行動や縄張り防衛のための攻撃行動といった性的二型性を持つ社会性行動を示すようになる。このような発達段階に応じた行動の変化は、種の存続と個体の環境適応に重要な役割を果たしている。
これまでの研究により、視床下部の特定の神経細胞群、とりわけステロイドホルモン受容体を発現する細胞群が、生得的社会行動の制御に不可欠であると示されてきた。これらの神経細胞群は、エストロゲンやテストステロンなどの性ホルモンの影響下で遺伝子発現パターンや神経投射を変化させ、複雑かつ可塑的な神経回路を形成する。しかし、この神経回路がどのようにして発達・成熟し、各ライフステージに適した行動変化を可能にするのか、そのメカニズムの全容は未だ解明されていない。さらに、成熟後の動物において、生理的状態の変化や環境要因が既に確立された神経回路にどのような可塑的な変化をもたらすのか、その過程も不明である。
本セミナーでは、新生児マウスの音声コミュニケーションと思春期における雄性行動の発達を例に、身体的成熟、ホルモン環境、生育環境といった過去の経験が、社会性行動とその制御を担う視床下部神経回路の発達にどのような影響を与えるかを議論する。
これらの知見は、ヒトを含む哺乳類の社会性行動の理解、さらには社会性行動に支障をきたす自閉症スペクトラム障害や社会不安障害などの病態解明にも貢献することが期待される。

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・脳機能学研究室