第1489回生物科学セミナー
精子核凝縮機構の理解とその知見の応用に向けて
岡田 由紀 教授(定量生命科学研究所)
2024年07月03日(水) 16:50-18:35 理学部2号館223号室及びZoom
哺乳類の精子は、個体を構成する細胞の中で最小の核を持ち、その核クロマチンは高度に凝縮している。この高次凝縮形態は、体細胞におけるクロマチンの主要構成成分であるヒストン蛋白質が、精子特異的蛋白質であるプロタミンに置き換わることに起因するが、一方で数%のヒストンがクロマチンに残存する。つまり精子クロマチンはプロタミンとヒストンが混在した状態にあるが、このユニークな構造の時空間的制御についての情報は、未だ乏しいのが現状である。その理由のひとつが精巣・精子特有の性質に起因する実験の困難さである。出生後に出現する精子幹細胞以降のin vitro分化培養系は未だ完全には確立されておらず生体精巣から分取する必要があるが、従来の分取技術では本研究目的に適う細胞の分取は困難である。さらに上記のクロマチン高次凝縮はクロマチンの可溶化・抽出を困難にし、その生化学的解析に大きな支障となっていた。
当研究室では、これら技術的問題点の解決を通して、ヒストン-プロタミン置換の時空間的制御および残存ヒストンの同定・機能解析に取り組んできた。さらに最近は精子エピゲノムの人工的改変にも挑戦している。本セミナーではこれらの成果を紹介するとともに、ヒト精子検体への研究成果の応用についても紹介したい。
参考文献
1.Hada et al., Identification of a variant-specific phosphorylation of TH2A during spermiogenesis. Sci. Rep. 2017
2.Yamaguchi et al., Re-evaluating the Localization of Sperm-Retained Histones Revealed the Modification-Dependent Accumulation in Specific Genome Regions. Cell Rep. 2018
3.Okada Y., Sperm chromatin structure: Insights from in vitro to in situ experiments. Curr Opin Cell Biol. 2022.
4.Fujiwara, Hada, et al., Isolation of stage-specific spermatogenic cells by dynamic histone incorporation and removal in spermatogenesis. Cytometry A, 2023
担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・発生細胞動態学研究室