第1488回生物科学セミナー
ネナシカズラ属の寄生戦略
西谷 和彦 特任教授(神奈川大学理学部)
2024年06月26日(水) 16:50-18:35 理学部2号館223号室及びZoom
アメリカネナシカズラ (Cuscuta campestris Yuncker)はネナシカズラ属145種中の典型種の一つで、5大陸に分布している。この植物は茎頂と根端に、それぞれ痕跡程度の葉と根と持つが、いずれも分化展開せず、したがって光合成や土壌からの養分吸収を行わない。代わりに、茎を伸ばして宿主に巻き付き、接着面に吸器という寄生器官を形成する。吸器を通して自身の維管束を宿主維管束に連結して、宿主より養分を吸収しながら成長、開花、結実して繁殖する。その寄生行動は古くより知られ、紀元前3世紀のテオフラストスの「植物誌」にも記載され、19世紀のJ. Sachsの教科書には道管連結の組織構造の精細図が記載されているが、巻き付き行動や吸器形成メカニズムはほとんど未解明である。演者は細胞壁の情報伝達という視点から10年ほど前に、この寄生現象に興味を持ち研究を始めた。このセミナーではアメリカネナシカズラが寄生の過程で、環境シグナルや宿主シグナルをどのようにうまく使っているかについて、近年私たちが明らかにしてきた知見を紹介したい。
参考文献 (全てopen access)
Kaga Y.et al. (2020) Frontiers in Plant Science 11, 524693 https://doi.org/10.3389/fpls.2020.00193
Narukawa H. et al. (2021) Plant Physiology, 185: 491–502 https://doi.org/10.1093/plphys/kiaa010
Shinohara N. et al. (2021) Plant and Cell Physiology, 62: 1874–1889 https://doi.org/10.1093/pcp/pcab093
Yokoyama R. et al. (2022) Frontiers in plant science 13, 904313 https://doi.org/10.3389/fpls.2022.904313
Yokoyama T. et al. (2023) Plant, Cell & Environment 46: 1774-1784
https://doi.org/10.1111/pce.14575
担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・発生進化研究室