第1486回生物科学セミナー
植物内・植物間コミュニケーションを可視化する
豊田 正嗣 教授(埼玉大学大学院理工学研究科)
2024年06月05日(水) 16:50-18:35 理学部2号館223号室及びZoom
道端に生えている草花。畑で育てられている野菜。触れられても、虫にかじられても何も感じていないように見えます。果たして本当でしょうか?何も感じることなく生きているのでしょうか?
近年、バイオセンサーや蛍光顕微鏡システムなどの技術躍進を背景に、植物の驚くべき情報伝達・感知機能が見えてきました。植物には神経や脳はありませんが、イオンチャネルなどの動植物に進化的に保存されたタンパク質と、師管や気孔などの植物特有の組織や構造を組み合わせることで、様々な環境刺激を鋭敏に感じて、高速に情報処理をしていることがわかってきたのです。
本セミナーでは、シロイヌナズナを対象にして「植物がどのような仕組みを用いて、昆虫にかじられたことを感じて、その情報を瞬時に全身に伝えているのか」について、その分子機構を紹介します1。さらに、オジギソウなどの動く植物が「どのような仕組みを用いて、葉を高速に動かすのか」「何のために葉を動かすのか」などについて、最新の映像を使って説明します2。そして、聴覚や視覚、嗅覚などの特殊な感覚器をもたない植物が「どのようにして個体間で互いに情報のやりとり(コミュニケーション)をしているのか」についても紹介します3。
動物とは異なる植物内および植物間コミュニケーションの新しい展開を、最新のイメージング技術で可視化された映像と共に概説します。
参考文献
1.Toyota M, Spencer D, Sawai-Toyota S, Wang J, Zhang T, Koo AJ, Howe GA, Gilroy S (2018) Glutamate triggers long-distance, calcium-based plant defense signaling. Science 361:1112-1115.
2.Hagihara T, Mano H, Miura T, Hasebe M, Toyota M (2022) Calcium-mediated rapid movements defend against herbivorous insects in Mimosa pudica. Nature Communications 13:6412.
3.Aratani Y, Uemura T, Hagihara T, Matsui K, Toyota M (2023) Green leaf volatile sensory calcium transduction in Arabidopsis. Nature Communications 14:6236.
担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・発生細胞生物学研究室