高橋 紀之 Takahashi, Toshiyuki
研究テーマ
灰色植物門の形態学的・分子系統学的分類
植物 Plantae とは?
皆さんは「植物 Plantae」と聞くと何を思い浮かべるでしょうか?身の回りに生えている草や木でしょうか?花の咲く被子植物 Angiospermae やイチョウ Ginkgo などの裸子植物 Gymnospermae、ワラビ Pteridium などのシダ植物...、これらは総称して陸上植物(または有胚植物 Embryophyta)と呼ばれます。この陸上植物(あるいはこれに近縁なシャジクモ Chara などを合わせたストレプト植物)に、アオサ Ulva(アオノリ)やオオヒゲマワリ Volvox といった緑藻を合わせたグループが緑色植物 Chlorophyta です。名前の通り、緑色の植物が多いのです。この身近な緑色植物は陸上から海洋まで広く分布し、単細胞性の微生物から多細胞のものまで色々な体制のものが居ます。
一方、アサクサノリ Pyropia やフノリ Gloiopeltis などで馴染み深い紅藻は紅色植物 Rhodophyta と呼ばれ、緑色植物と同じ一次植物(下記参照)であるとして、紅色植物と緑色植物は姉妹群と言われております。紅色植物は海洋に広く分布し、褐藻と共に「海の森」を形成しています。比較的見る機会が多いので、親しみ易い植物と云えます。こちらも名前の通り、赤色の植物が多いのです。緑色植物同様に細胞性の微生物から独立して多細胞化したものまで色々な体制のものが居り、繁栄したグループと云えます。尚、残念ながら褐藻は一次植物ではなく、この意味で、植物ではありません。
さて実は、植物には、緑色植物・紅色植物の他にもう一つの姉妹群があります。灰色(かいしょく)植物 Glaucophyta(灰色藻)です。単細胞遊泳性の Cyanophora や母細胞壁中で増える不動性の Glaucocystis 等が知られています。しかし、灰色植物は灰色ではありません。非常に美しい碧色(青緑色)の植物なのです。この植物は緑色植物・紅色植物とは異なり、大変珍しい為、普通の人は一生に一度も見ることがないでしょう。しかも、緑色植物・紅色植物では複数の系統が独立して多細胞化している為、巨視的な生き物が多く親しみ易いのですが、灰色植物は淡水産の微細藻類しか知られていない為、なかなか観察も難しいのです。ところが、この灰色植物は緑色植物・紅色植物では失われてしまった、一次共生初期の「植物」の姿を留めていると考えられ、「生きた化石」とも呼ばれています。私はこれ迄殆ど行われて来なかった灰色藻の分類を最新の分子生物学と微細形態比較に基づき行っています。
一次共生とは?
光合成を行わない「原生真核生物」は光合成細菌シアノバクテリア(藍色細菌、藍藻)を取り込み、細胞内で光合成細菌と共生(細胞内共生)する様になりました。そして、光合成細菌は「原生生物」の細胞内で光合成細胞小器官である「色素体(葉緑体)」となり、「原生生物」は「藻類」となりました。この様な初めての細胞内共生による「無色原生生物の藻類化(光合成を行わない原生生物が色素体を獲得して光合成が可能となった事)」を一次共生と呼びます。又、この様な一次共生に依って藻類化した系統群としては、これ迄に一次植物 Archaeplastida とパウリネラ Paulinella が知られています。現在一次植物は単系統であるという仮説に基づき「植物界 Plantae」が定義されています(上記)。尚、「植物 Plantae」という言葉には様々な定義がありますが、ここでは、緑色植物 Chlorophyta・紅色植物 Rhodophyta ・灰色植物Glaucophyta の3門を合わせた系統群「植物界 Plantae s.l.」の意味で使用しております。一方「藻類 Algae」は光合成を行う水棲の生き物で、「原生生物」同様 系統群の名称ではありません。一次共生によって生じた真核藻類(紅藻や緑藻等)を細胞内に取り込み、細胞内共生をする事で、原生生物が「藻類化」し、真核藻類が丸ごと「色素体(葉緑体)」となった二次共生も知られています。コンブ Saccharina やワカメ Undaria はこの様な二次共生藻の一つ褐藻類です。褐藻は紅藻を丸ごと細胞内に取り込んだ生き物の子孫で、独立して多細胞化した生き物であり、植物ではありませんが、身近で親しみ易い繁栄したグループと云えます。同様に更に細胞内共生を重ねた高次共生藻も知られています。
論文(査読有)
- 1. Takahashi, T., Sato, M., Toyooka, K. and Nozaki, H. 2014.
Surface ornamentation of Cyanophora paradoxa (Cyanophorales, Glaucophyta) cells as revealed by ultra-high resolution field emission scanning electron microscopy. Cytologia 79(1): 119-123. -
2. Takahashi, T., Sato, M., Toyooka, K., Matsuzaki, R., Kawafune, K., Kawamura, M., Okuda, K., Nozaki, H. 2014.
Five Cyanophora (Cyanophorales, Glaucophyta) species delineated based on morphological and molecular data. J.Phycol.