野崎 久義 Nozaki, Hisayoshi

主な研究内容

単細胞〜群体性の緑藻類の分類と系統進化に関する研究を中心に据え、緑藻から高等植物への進化系列の研究として車軸藻類の分類学と保全生物学、また、真核植物の誕生から緑色植物に至る過程として、ゲノム解析を基盤にした真核植物の起源と真核生物の大系統に関する研究を行なっている。研究の特徴は、フィールドで採集したサンプルに基づく生きた培養細胞を重視していることである。研究方法も、フィールドでの調査から、光学・電子顕微鏡を使った細胞形態学、更に遺伝子を扱う分子系統学に加えて、最近ではゲノム解析を基盤にした大系統の研究、オス特異的遺伝子 "OTOKOGI" を基盤とするオスとメスの進化研究を実施している。

1. 真核植物の種レベルの分類学的研究

種レベルの記載分類こそ分類学の神髄であり、種が正確に同定できる分類学者が社会的に最も期待され、分類学は他の学問分野にはない興味深い側面をもつと考えている。私は分子系統で単系統群であると解析され、形態的な識別ができるものという種の概念を用いた種分類の研究を世界に先駆けて実施してきており(Nozaki et al. 1998, J. Phycol.)、これに関しては微細藻類と車軸藻類でも成果をあげている。

2.ボルボックスの仲間を用いたメスとオスの起源と進化の研究

ボルボックスの仲間は配偶子にメスとオスの区別がつかない同型配偶から卵と精子をもつ卵生殖まで各進化段階があり、メスとオスが進化した原因を探るのに最適なモデル生物群と古くから考えられていた。形態観察と遺伝子解析による長年の研究の結果、同型配偶から卵生殖への進化の道筋は明らかになったが (Nozaki et al. 2000, MPE)、どのような同型配偶の性がメス・オスに進化したかは不明であった。最近プレオドリナの新種を発見し、その際に新たに確立した培養株を用いて、オス特異的遺伝子”OTOKOGI”を発見した。この結果、同型配偶の派生型の性がオスに進化したことが初めて明らかになった (Nozaki et al. 2006, Curr. Biol.)。

3.”超”植物界仮説の提唱:大系統の研究

 20億年前に起きた「植物」のはじまりはシアノバクテリア(藍藻)を捕獲し、自らの色素体(葉緑体)としたことに始まるが、その後の進化に関しては様々な説があった。最近我々は、太古の進化の推測に適切と考えられる保存的遺伝子だけを用いて大規模なスーパーコンピュータ解析を実施した結果、色素体の獲得後、様々な系統で色素体を失ったという説を支持した (Nozaki et al. 2007, MBE)。この結果は、現在は色素体を欠く多くの鞭毛虫等の生物群も「植物」として分類すべきであるという2003年に我々が提唱した”超”植物界("Super" Plant Kingdom)の復権を意味する。

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