東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
ホーム > 国際交流 > 世界をリードする研究・教育に触れて(UCSF tetradリトリートおよび研究室訪問を終えて)砺波 一夫

世界をリードする研究・教育に触れて(UCSF tetradリトリートおよび研究室訪問を終えて)

医学系研究科 分子・細胞生物学専攻 代謝生理化学分野 砺波 一夫

私は本年9月に約1週間、カリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF) のTetradプログラムのリトリートおよび研究室を訪れる機会に恵まれました。UCSFは医学・生命科学を中心とした大学院大学で、世界をリードする大学院大学の1つです。また、Tetradは大学院教育プログラムの1つで入学した学生は始めにBiochemistry & Molecular Biology, Cell Biology, Genetics, Developmental Biologyの4分野を横断的に学習し、初年度の最後に各専門分野に配属されるという大変ユニークなコースです。

サンフランシスコ到着の翌日、さっそく会場であるタホへ移動しリトリートに参加しました。リトリートではとにかく教職員によるレクチャーが朝から夜遅くまで続きました。まず私が驚いたのは講義に対する学生の非常に積極的な姿勢でした。日本では講義を受けるという感覚が強いですが、UCSFの学生はレクチャーをたちまちディスカッションに変え、それを楽しんでいるように見えました。また、教授陣の講義もユーモアとウィットに富んだものであり、レクチャーの中に学生と教員のコミュニケーションがしっかりと成立していることを感じました。講義の分野も多岐に渡るもので、分析から出発した生命科学の中に統合的理解を目指す完成度の高い教育プログラムが進められていることに驚きを覚えました。熱気あふれるレクチャーの後にはTetradの学生達による新入生歓迎会やPIを風刺した寸劇が行われ、彼らを等身大の学生として身近に感じることができ、そして何より学生自身がTetradのプログラムの一員であることに誇りと喜びを持っていることを実感した瞬間でした。リトリート2日目には我々もポスター発表をする機会を得ることができ、UCSFのコミュニティの一員として学生や教職員の方々と討論をすることが出来ました。未公開データも多く含む学内のリトリートに参加させて頂けたことは本当に貴重な経験であったと思います。また忌憚ない環境だったからこそ自身の英語でのプレゼンテーション能力の不足点や自分の研究に対する海外の研究者や学生の率直な評価を認識できる場ともなりました。

リトリートに続く研究室訪問では私が最も興味ある発生・再生医学の研究が盛んなGladstone研究所のSrivastava教授のもとにメインホストとして受け入れて頂くことが出来ました。さらにSrivastava教授のご紹介で同研究所内の3つの研究室に滞在することができ、世界をリードする生命科学の現場を間近で体験するという得難い機会に恵まれました。UCSFではリサーチフェローのような若い研究者でもPIとして独立したグループを構成し、ユニークなアプローチやオリジナリティーの高い研究が展開されていることに新鮮な驚きを感じました。また、この様な比較的小さなグループによる独創性の高い研究が学内全体の研究に多様性を与えており、世界の生命科学をリードするUCSFのシステムの一端を垣間見たように思います。訪問研究室の中にはミーティングへの参加を許可してくれたところもあり、最先端の生命科学のデータが導き出されるプロセスやデータに対する徹底した討論には学ぶべきことがたくさんありました。そして、このような経験は自分の研究や思考のプロセスを世界の研究の中で意識し、再評価する大きなきっかけともなりました。今回の訪問では自らの手で希望の訪問先を探し、直接アポイントを取るという主体的な方法が取られました。慣れない作業に当初は困惑しながらも、海外の先進的な研究者と直接コミュニケーションを取るという貴重な経験を得ることが出来きました。そして、何よりも嬉しいのはリトリートや研究室訪問を通じ知り合ったUCSFの教職員や学生の方々と日本に戻った今でもメールなどを利用して交流を続けられているということです。

最後になりましたが、本プログラムの企画および全面的なご支援を頂きました東京大学分子生物学研究所の多羽田哲也先生ならびにUCSFのTom Kornberg先生、ホスト研究室をお引き受け頂き、事前調整から滞在中のご指導まで極め細やかなご支援を賜りましたDeepak Srivastava先生はじめお世話になりました諸先生方に心より感謝申し上げます。

説明