東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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刺激の豊かな生育環境での記憶・学習能力の向上にモーター蛋白KIF1Aが必須である

(Neuron 73, 743-757, February 23, 2012)

刺激の豊かな環境で育ったマウスには、脳に様々な影響があることが知られていますが、その詳細な機序はこれまで不明でした。廣川研究室の近藤らのグループは、これら脳の変化を引き起こす鍵となる分子が何であるかを調べました。その結果、神経細胞の中でシナプスの材料となる物質を輸送するモーター分子KIF1Aが、刺激の豊かな環境で育ったマウスの海馬で増えていることを見出しました。また、神経栄養因子BDNFがKIF1Aの増大を制御していることも見出しました。さらに、KIF1Aが、刺激の豊かな環境で育ったマウスで見られる海馬のシナプス形成や記憶・学習能力の増強に必須であることを発見しました。これは、モーター分子が、生育環境によって引き起こされる脳の形態的変化や動物の行動変化に重要な役割を担っていることを初めて示したもので、モーター分子の新たな機能が明らかとなりました。この発見は、様々な経験によって変化する私たちの脳の解明につながるもので、将来、脳神経疾患の治療法への新しいアプローチとなることが期待されます。

本GCOEプログラム事業推進担当者
医学系研究科細胞生物学・解剖学講座/分子構造・動態学講座特任教授 廣川 信隆

図1 通常の環境(左のケージ)と刺激の豊かな環境(右のケージ)

図1 通常の環境(左のケージ)と刺激の豊かな環境(右のケージ)

図2 刺激の豊かな環境で育ったマウスで見られる海馬のシナプス形成や記憶・学習能力の増強にKIF1Aが重要である

図2 刺激の豊かな環境で育ったマウスで見られる海馬のシナプス形成や記憶・学習能力の増強にKIF1Aが重要である