東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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トランスゴルジ網に局在する膜交通因子が植物免疫に関与することを発見

(Proc Natl Acad Sci U S A., 109:1784-89)

真核生物の細胞内には、さまざまな種類の細胞小器官が存在している。小胞体やゴルジ体、液胞などは一重の膜で形成される細胞小器官であり、膜小胞や細管を介して相互に内容物をやりとりしている。この仕組みは「膜交通」とよばれ、タンパク質などの物質を細胞内の正しい場所へ輸送するために必須である。トランスゴルジ網(trans-Golgi Network, TGN)は、ゴルジ体に隣接する網目状の構造体で、小胞体で合成されたタンパク質がゴルジ体へ運ばれた後、最終目的地(細胞外への分泌や液胞など)に向けてタンパク質の選別を行う、膜交通において重要な分岐点となる区画であると考えられている(図1)。しかしながら、植物においては、トランスゴルジ網が固有の機能を果たす可能性も報告され、またその生理的な役割についても不明であった。

我々は、シロイヌナズナのトランスゴルジ網に局在するSNARE分子、SYP4の機能を解析することにより、植物細胞におけるトランスゴルジ網の役割を明らかにしようと考えた。これらの遺伝子のノックアウト変異体の表現型を詳しく解析した結果、SYP4が分泌経路と液胞輸送経路の双方を制御し、病原菌に対する抵抗性に関与していることを発見した。これらの結果から、トランスゴルジ網が膜交通の分岐点として機能し、植物の免疫メカニズムを維持するうえで重要な細胞小器官であることが明らかとなった。

本GCOEプログラム事業推進担当者
理学系研究科 生物科学専攻 発生生物学研究室・教授 中野 明彦

図1:トランスゴルジ網が制御する膜交通経路の模式図。真核生物の細胞内にはさまざまな種類の細胞小器官し、膜交通よって結ばれている。ゴルジ体に隣接する網目状の構造体は、トランスゴルジ網と呼ばれる細胞小器官である。

図1:トランスゴルジ網が制御する膜交通経路の模式図。真核生物の細胞内にはさまざまな種類の細胞小器官し、膜交通よって結ばれている。ゴルジ体に隣接する網目状の構造体は、トランスゴルジ網と呼ばれる細胞小器官である。

図2

図2: A シロイヌナズナの野生型ではほとんど生育できないうどんこ病菌(Erysiphe pisi)を感染させた植物。野生型に比べて(左側)、syp42 syp43変異体では、うどんこ病菌の侵入と増殖を許し、うどんこ病の増殖が観察される(右)。写真のスケールバーは50マイクロメートル(1/20ミリメートル)。B シロイヌナズナの野生型で増殖可能なうどんこ病菌(Golovinomyces orontii)を感染させた植物。野生型に比べて(左側)、syp42 syp43変異体では、葉の黄化が観察された(真ん中)。葉の黄化は、植物の免疫応答に働くサリチル酸の合成遺伝子(SID2)を欠損させることで回復した(右)。写真のスケールバーは1センチメートル。