東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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Sirt3は初期胚を外界ストレスから防御する

(J. Clin. Invest. 120: 2817-2828, 2010)

哺乳類では一般に、排卵から受精、着床に至る過程は外界から防御された低酸素状態で営まれますが、生殖補助医療におけるような体外培養環境下では、ミトコンドリアでの電子伝達系を介した活性酸素種(ROS)産生が増加します。また、ある種のミトコンドリア異常は過剰なROS産生を引き起こし、着床前胚を傷害することから、代謝調節やミトコンドリア機能は初期胚発生能を左右する重要な因子とされています。

SirtuinファミリーはNAD+依存性の脱アセチル化酵素群で、エネルギー代謝と細胞機能との橋渡し因子として、老化・代謝調節・発癌などさまざまな生命現象に関与します。今回の研究では、哺乳類で同定されているSirt1–7のうち、ミトコンドリアに局在するSirt3が、体外受精・培養にともなう酸化ストレスに対して防御的に機能し、初期胚発生の進行に寄与していることをRNAiやノックアウトマウス胚を用いた実験を通して示しました。即ち、Sirt3の機能を欠損させた受精卵が好気的環境下に曝されると、機能低下をきたしたミトコンドリアから過剰なROSが産生され、その結果p53シグナル経路が誘導されて初期胚発生の停止を招くことが明らかになりました。

これらの知見は、初期胚が外界ストレスから自分自身を守り、正常発生を進行させるメカニズムの理解につながるとともに、生殖補助医療の向上にも貢献するものと期待されます。

本GCOEプログラム事業推進担当者
医学系研究科分子細胞生物学専攻教授 栗原裕基

図 Sirt3機能欠損による初期胚発生停止とそのメカニズム

Sirt3機能欠損による初期胚発生停止とそのメカニズム