東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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1本の“勝ち組”登上線維の樹状突起への選択的移行と“負け組”の細胞体からの除去

(Neuron 63: 106-118, 2009)

 生後発達期の動物の神経回路は、周囲の環境に依存して柔軟に変化することができます。私達は、マウス小脳の登上線維−プルキンエ細胞シナプスの生後発達を調べることにより、このような神経回路の柔軟性の原理を明らかにしたいと考えています。誕生直後の動物では、複数の登上線維がプルキンエ細胞の細胞体にシナプスを作っていますが(多重支配)(A)、大人になると、わずか1本の登上線維がプルキンエ細胞の樹状突起にシナプスを作るようになります(単一支配)(D)。今回私達は、プルキンエ細胞上での登上線維シナプスの位置の生後変化を調べました。生後7日目までに、複数の登上線維のうちで、将来プルキンエ細胞を単一支配する登上線維のみが選択的に強化されます。電気生理学的手法と形態学的手法を駆使して調べたところ、この時期の登上線維シナプスは、プルキンエ細胞の細胞体上に限局していることが分かりました(B)。生後9日目から、選択的に強化された登上線維のみが樹状突起に移動してシナプスを作りますが、それ以外の強化されていない登上線維は細胞体近傍に取り残され(C)、生後15日までに除去されることが明らかになりました(D)。この結果は、残存する登上線維を決める競合はプルキンエ細胞の細胞体上で起こり、競合の“勝者”のみが樹状突起に移行することを示しています。

本GCOEプログラム事業推進担当者
医学系研究科 機能生物学専攻 神経生理学 教授 狩野方伸

図

生後2-3日齢前後のプルキンエ細胞は、比較的同等なシナプス強度をもつ登上線維により多重支配されている(A)が、生後7-8日目までに、1本の登上線維が選択的に強化される(B)。その後、強化された登上線維のみが樹状突起に移動し(C)、最終的に細胞体周辺のシナプスは、過剰な登上線維とともに生後15日までに除去される(D)。