東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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哺乳類細胞におけるCa2+放出活性の経時的スイッチングと細胞間不均一性〜クローン細胞の示すCa2+シグナルの個性〜

(Molecular Systems Biology 5: 247, 2009)
http://www.nature.com/msb/journal/v5/n1/full/msb20096.html

 同じ遺伝的背景の細胞を同じ環境に置いた場合でも、個々の細胞が多様な表現型を示す現象が近年注目を集めています(図A)。この現象は微生物を用いて精力的に研究され、遺伝子の転写・翻訳過程で生じる小さなノイズが増幅されることで異なる表現型に至る、という機構が示唆されています。しかし、分化した哺乳類細胞にも同様の現象が存在するかどうかはよくわかっていませんでした。今回私たちは、ヒト由来の培養細胞株であるHEK293細胞を薬物(カフェイン)で刺激した場合に、約40%の細胞だけがCa2+応答を示し、残りの細胞は全く応答を示さない、という表現型不均一性を報告しました(図B)。長時間経時的Ca2+イメージングと数理モデリングを組み合わせたシステム生物学的アプローチにより、Ca2+放出活性とCa2+取り込み活性の細胞間の小さな違いが「Ca2+によるCa2+放出」機構によって増幅されて表現型の違いが生み出されること、また個々の細胞が平均約65時間で「Ca2+応答陽性」と「Ca2+応答陰性」を示す2つの状態の間を遷移すること(図C)を明らかにしました。この研究は哺乳類細胞における表現型不均一性の研究の先駆けとなるものであり、薬物に対する癌細胞の応答や成長因子に対する幹細胞の分化などに見られる不均一性を理解し、制御することに役立つと期待されます。

本GCOEプログラム事業推進担当者
医学系研究科機能生物学専攻教授 飯野 正光

図1