東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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顎顔面の「かたちづくり」を制御する分子スイッチの同定

(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 105: 18806-18811, 2008)

顎(あご)は脊椎動物の大半を占める顎口上綱に共通する基本構造です。上顎と下顎はそれぞれ第1鰓弓(咽頭弓)の背側と腹側に生じる2つの隆起(上顎弓・下顎弓)に由来し、Dlxと呼ばれるホメオボックス遺伝子群(ショウジョウバエDistalless遺伝子のオルソログ)の発現パターンの違いによって、それぞれの領域特異的な形態形成プログラムが作動すると考えられています。しかし、どのようなシグナルによってDlx遺伝子が誘導され、領域特異性が決定されるのかはよくわかっていません。私たちはこれまで、マウス遺伝学的手法によって、エンドセリン-1というペプチドシグナルが欠失すると、下顎形態を特徴づけるDlx5/Dlx6の発現が消失し、下顎が上顎化することを明らかにしてきました。今回の研究では、遺伝子ノックインによって頭部神経堤細胞に発現するエンドセリン受容体を恒常的に活性化することにより、今度はDlx5/Dlx6の発現誘導を介して上顎を下顎に形質転換しうることを実証しました。さらに、Dlx5/Dlx6によって誘導されるbHLH型転写因子Hand2を異所性に発現させることにより、同様の変化を起こすことを明らかにしました。以上から、エンドセリン-1シグナルが、顎の形成において上顎と下顎のどちらの形態形成プログラムを起動するかを決定する分子スイッチであることを証明しました。

本GCOEプログラム事業推進担当者
医学系研究科分子細胞生物学専攻代謝生理化学分野教授 栗原裕基

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