東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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体内時計をリセットする新規時計ホルモンの発見と時計リセット機構の同定

(Nature Cell Biology, 10,1373-1484, 2008)

 生物の多くの細胞には生物時計が存在し、この時計は約24時間で1サイクルすることから概日時計(概ね一日周期の意)と呼ばれます。哺乳類では視床下部(視交叉上核)に存在する中枢時計がさまざまな組織・器官に存在する末梢時計の位相を制御すると共に、(光以外の)食餌などの外来情報によっても末梢時計の位相は調節されます。これらの位相制御により、個体において多彩な生理機能のサーカディアンリズムが形成されますが、その細胞内シグナル伝達は謎に包まれていました。
  私どもはこれまで、多くの培養細胞も時計機構をもつことに着目し、時計遺伝子Bmal1プロモータで駆動されるルシフェラーゼレポーターの時刻モニタリングシステムを用いて細胞時計のリセットシグナリングを解析してきました。グローバルCOEプログラムのサポート(RA)を受けた金 尚宏君(D3)は、TGF-βあるいはアクチビンというタンパク質因子の投与が細胞時計の時刻をリセットすることを見出しました(図1)。TGF-βやアクチビンは、転写因子DEC1の一過的な転写誘導を引き起こし、その結果、(時計遺伝子の発現調節を介して)時計がリセットされます。細胞内シグナリングを解析した結果、TGF-βやアクチビンは、時計細胞のType I TGF-β受容体キナーゼALK5を活性化し、ALK5によりリン酸化されて活性化した転写因子SMAD3が、Dec1上流に結合してその転写を活性化することがわかりました(図2)。TGF-βをマウス腹腔内に投与すると腎臓や副腎などの末梢時計が位相シフトしますが、Dec1欠損マウスでは位相がシフトしないことから、この時計リセット機構は生体においても作動することがわかりました(図3)。体内時計の乱れは睡眠障害の他にも、うつ病や癌、代謝異常など様々な疾患と深く関わっています。私たちは、本研究の成果が様々な疾患の治療にもつながると考えています。

本GCOEプログラム事業推進担当者
理学系研究科生物化学専攻教授 深田 吉孝

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