東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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ペプチドホルモンを介した木部と師部のクロストークの発見

(Proc. Natl. Acad. Sci, USA 105, 15208-15213, 2008)

植物には、木部と師部の2つの養分輸送組織があります。木部は根から水分、塩類、シグナル分子を運び、師部は葉でつくられたショ糖やシグナル分子を運びます。この2つの装置は違った役割をするのですが、それぞれがうまく連動して初めて、植物内の栄養や情報のスムーズな伝達が可能になります。この2つの組織は、その間にある維管束幹細胞(前形成層)からつくられます。

2006年に、私たちは12個のアミノ酸からなる新規ペプチドホルモン、TDIFを発見しました(Ito et al., Science, 2006)。今回、このTDIFの受容体を同定するとともに、TDIFの働きを詳細に検討したところ、以下の新しい知見が得られました(図)。1)TDIFは師部組織によりつくられ、細胞外に分泌される(図A)。2)分泌されたTDIFは、維管束幹細胞に局在する受容体TDRに結合し、シグナルを細胞内に伝える(図B)。3)その結果、維管束幹細胞から木部への分化が阻害される一方で、維管束幹細胞の分裂は促進され、未分化な状態の幹細胞が増える(図B)。このようにして、師部からのシグナルが、木部細胞への分化を抑制し、過剰の木部をつくらせないという、師部と木部のクロストークが初めて明らかとなりました。

本GCOEプログラム事業推進担当者
理学系研究科生物科学専攻教授 福田裕穂

図

新規ペプチドホルモン(TDIF)/受容体TDRシステムによる維管束幹細胞の発生運命の制御。A. TDIFは師部前駆細胞から特異的に分泌される。B. TDIFはTDRに受容され、維管束幹細胞からの木部分化を阻害し、幹細胞の分裂を促進する。