東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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分子モーターキネシンの歩みの制御機構〜レールからのシグナルを巧妙に利用する〜

(Nature Struct. Mol. Biol. 15: 1067-75, 2008)

キネシンはATPの加水分解エネルギーを使って微小管に沿って移動し、生命活動に必要なさまざまな物質を輸送する分子モータータンパク質です。その動作機構を解明するために廣川、仁田らは、モノマー型キネシンであるKIF1Aの構造解析を行ってきましたが、今回はADP/ATP交換過程の中間体の構造解析に成功し、これによりKIF1AのATP加水分解サイクルの全過程の構造を解くことに成功しました(図1)。

ADP/ATP交換過程はKIF1Aが単独に存在する時にはとても遅い反応で、レールである微小管はこの過程を1万倍以上も促進します。つまり、KIF1Aはレール上にある時だけ有効にエネルギーを使える様に省エネルギーを実践しています。この仕組みが今回の解析でわかりました。ADP放出が遅い、言い換えるとKIF1AがADPを強固にトラップしていることがこの過程の鍵のひとつです。今回解析した構造により、ADPはマグネシウムとその配意水の緊密な水素結合ネットワークに覆われており(Mg-water capと命名)、周囲の構造とともにATPポケット内に強固にトラップされていました(図2)。さらにこの部分は、Switch I、Switch IIと呼ばれる構造を介して、L7と呼ばれるβヘアピン構造にアンカリングされて安定化されていました。このようにL7は根元の部分ではATPポケットとリンクされているのですが、その先端部分は微小管結合面に露出していました。微小管はこの先端部分(“微小管センサー”と命名)を認識してキネシンと結合し、静電的引力によりキネシンを微小管側に引っ張ります。すると、このL7にリンクされていたADPの周りの結合が外れ、Mg-water capが外れ、ADPが出て行くというピストルのトリガーの様なしくみになっていることがわかりました。

本GCOEプログラム事業推進担当者
医学系研究科分子細胞生物学専攻 教授 廣川信隆

図1

図2