東京大学グローバルCOE 生体シグナルを基盤とする統合生命学
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蛋白質合成の関わる樹状突起スパインの増大を発見

(Science 319: 1683-1687, 2008)

長期記憶の獲得には、蛋白質合成が必要であることが知られており、その分子細胞機構の解明がこの分野の焦点の一つとなっています。我々は、2004年に2光子励起法によるグルタミン酸の反復投与を大脳海馬の錐体細胞のスパインに与えると長期増強に伴って、スパインの頭部増大が観察されることを見出しました(Nature 429:761-766, 2004)。予想に反して、この形態変化は蛋白質合成に依存性がありませんでした。そこで、スパインの刺激とその錐体細胞の活動電位を同期させる同期発火刺激を与えたところ、特に漸増的な頭部増大が誘発され、それが蛋白質合成に強く依存することを見出しました。更に、同期発火刺激は脳由来神経成長因子(BDNF)分泌の適刺激であり、これにより頭部増大が蛋白合成依存的に変わることを見出しました。この研究は蛋白質合成に依存する固有のシナプスの形態変化が存在することを示したもので、スパインは長期記憶の蓄積部位として適格であることを示します。同期発火とは、神経回路が能率よく情報を処理しているときに起きる現象です。今後、同期発火、栄養因子の分泌、スパインの構造変化などの関係についてより詳細な解明が進むと、脳機能や心の理解が進むだけでなく、精神疾患の理解や治療にもつながることが期待されます。

本GCOEプログラム事業推進担当者
医学系研究科機能生物学専攻教授 河西 春郎

スパイクタイミング刺激(=同期発火刺激、A)によって誘発したスパイン頭部増大(B)とその時間経過(C)。頭部増大は刺激したスパインに特異的で、隣のスパインに広がらない。

スパイクタイミング刺激(=同期発火刺激、A)によって誘発したスパイン頭部増大(B)とその時間経過(C)。頭部増大は刺激したスパインに特異的で、隣のスパインに広がらない。