第1046回生物科学セミナー

13C代謝フラックス解析法の基礎と応用

松田 史生(大阪大学情報科学研究科)

2015年05月13日(水)    16:00-17:30  理学部 3号館 310号室   

細胞内代謝経路を流れる単位時間当たり、単位組織当たりの代謝物フローを代謝フラックス (mol g-1 h-1) と呼ぶ。代謝中間体の増減、酵素遺伝子の発現や、酵素活性の変化から、代謝フラックスを正確に推定することは難しい。そこで、13C代謝フラックス解析法が代謝工学分野で開発され、有用物質生産株の中央代謝経路の解析に用いられてきた。中央代謝経路の代謝フラックス分布を決定できれば、目的有用物質生産に必要な前駆体や、ATP、NADPHの供給反応を特定できる。また、細胞内代謝システムにおいて、代謝フラックスと代謝中間体含量、酵素活性との関係を解析するための必須の知見をもたらす。近年は、がん特異的な代謝の解明や、薬剤作用機作研究への活用も期待されている。
 一方、13C代謝フラックス解析の実施には、13C標識炭素源をもちいたトレーサー実験に加え、炭素収支の計測や代謝モデルの構築および非線形最適化計算など、通常の分析とは異なる手順が必要となる。また、13C代謝フラックス解析は大腸菌などのシンプルな系を対象に技術開発が行なわれてきた。近年は、機器分析法の高感度化、専用ソフトウェアの高速化などの改良を行なうことで、真核微生物の出芽酵母や、増殖が遅く複数の炭素源を要求する培養細胞の13C代謝フラックス解析が可能になってきている。そこで、13C代謝フラックス解析法の基礎および専用ソフトウェアOpenMebiusを用いた解析法を概説する。また、酵母、培養細胞などへの適用例をもとに13C代謝フラックス解析がもたらしうる知見を紹介する。さらに、代謝フラックス解析法の今後の展開とシステム生物学への展開について議論したい。