1030回生物科学セミナー

ゲノム解析の先に何が見えるか?~大腸菌進化実験の表現型・遺伝子型解析~

古澤 力(理化学研究所 生命システム研究センター)

2015年06月10日(水)    16:50-18:356  理学部2号館 講堂   

NGS解析の発展は、生物システムに関する膨大な情報の取得を可能とした。では、こうした解析に基づいて、生物学研究のどのような質的な変換が起こるのであろうか?本講演では、その試みの一つとして、我々が行っている大腸菌進化実験の表現型・遺伝子型解析について紹介する。この研究では、様々な抗生物質を添加した環境下で進化実験を行い、そこで得られた耐性株について、NGS解析により突然変異を同定し、また遺伝子発現量の変化を定量した。これらのデータを統合することにより、数個の遺伝子発現量変化に基づいて、様々な薬剤への耐性・感受性を高精度で予測する手法を構築した (Suzuki et al, Nature Comm., 2014)。このとき、発現量と耐性・感受性の変化は強く相関する一方で、ゲノム変異は耐性能の変化と必ずしも相関を示さず、変異に依らない表現型の変化が耐性能の獲得に寄与していることが強く示唆された。ゲノムを詳細に解析することによって初めて見えてきた、ゲノムに依らない適応進化ダイナミクスについて議論する。

参考文献 S. Suzuki, T. Horinouchi, C. Furusawa, Nature Comm., 5:5792 (2014)