第1035回生物科学セミナー

アンセリジオーゲンはジベレリンの生合成経路を時間的および空間的に分けることによりシダの性を決定する

上口(田中)美弥子(名古屋大学生物機能開発利用研究センター)

2015年09月30日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

シダ植物のいくつかは,集団における遺伝的な多様性を確保するため,雄と雌の比を制御するフェロモン様の物質を分泌する。このフェロモン様の物質はアンセリジオーゲンとよばれており,雄の個体を誘導するはたらきがある。いくつかのシダのアンセリジオーゲンの構造は植物ホルモンであるジベレリンと類似している。
 筆者らは,シダにおけるアンセリジオーゲンを介した個体のあいだのコミュニケーションについて明らかにした。この個体間コミュニケーション系とは,異なる生育ステージにある個体のあいだでジベレリンの生合成経路を分けて所有することにより成立するもので,アンセリジオーゲンはこの2つの個体をつなぐ架け橋として機能する。すなわち,集団において早く成熟した配偶体はアンセリジオーゲンを周囲に分泌する。アンセリジオーゲンは活性型のジベレリンとは異なる構造をもち生理活性を示さないが,一方で,生体に取り込まれやすいという性質をもつ。遅れて発生した若い個体は分泌されたアンセリジオーゲンを取り込み,生体においてこれを活性型ジベレリンへと変換する。生理活性を示す活性型ジベレリンが産生されることにより雄の個体の形成がはじまる。
Junmu Tanaka et al. Science, 346, 469-473 (2014)