第1033回生物科学セミナー

細胞の自食作用「オートファジー」における分解標的認識のメカニズム

中戸川 仁(東京工業大学・大学院生命理工学研究科)

2015年07月08日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

私たちは、優れたモデル生物である出芽酵母を用いて、オートファジーを支える分子機構の研究に取り組んでいる。オートファジーとは、細胞内成分の大規模な分解・リサイクル機構である。オートファジーが誘導されると、細胞質に扁平な膜小胞が現れ、これが分解標的を包み込むようにして進展し、閉じ、二重膜包「オートファゴソーム」が形成される。オートファゴソームがリソソーム/液胞と融合することで、標的の分解が達成される。栄養飢餓時には、細胞質の一部がオートファゴソームによってランダムに隔離され、その分解産物は細胞の飢餓適応に利用される。一方、細胞内に損傷したミトコンドリア、余剰となったペルオキシソーム、異常タンパク質の凝集体などが生じると、オートファゴソームはこれらを選択的に取り込んで分解に導く。後者のタイプのオートファジーは、選択的オートファジーと呼ばれ、神経変性疾患、肝疾患との直接的関連からも近年特に注目を集めている。本セミナーでは、まず、既知の選択的オートファジーにおける分解標的認識の制御機構について、私たちの最新の成果を紹介する。また、私たちは、最近、選択的オートファジーがどの程度広範に細胞機能の維持や制御に関わるかにも興味を持って研究を進めている。その結果、小胞体および核の一部も選択的オートファジーの標的となることを明らかにするに至った。これらオルガネラをオートファゴソームに取り込ませるレセプター分子を新規に同定し、その機能やメカニズムの解明、小胞体や核の選択的オートファジーの生理的意義の解析にも取り組んでいる。本セミナーでは、これら未発表データについても紹介したい。

参考文献
Tanaka C, Tan LJ, Mochida K, Kirisako H, Koizumi M, Asai E, Sakoh-Nakatogawa M, Ohsumi Y, Nakatogawa H (2014) Hrr25 triggers selective autophagy–related pathways by phosphorylating receptor proteins. J. Cell Biol. 207, 91-105.

Nakatogawa H, Suzuki K, Kamada Y, Ohsumi Y (2009) Dynamics and diversity in autophagy mechanisms: lessons from yeast. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 10, 458-467.